【初心者向け】パーパスとは?意味・メリット・事例3選

パーパスとは

パーパスの定義

パーパス (Purpose) とは、企業や組織の「存在意義」という意味で利用されるビジネス用語です。英単語のPurposeは「目的」や「意図」という意味ですが、経営戦略やブランディングの文脈においては「存在意義」の意味で使われます。

なぜその事業を行い、どのような存在意義があるのか、といった企業の軸を明確に定義し、社内外に発信していくことで共感の輪を広げる手法として、パーパスは注目を集めています。近年では多くの大企業がパーパス経営を実践しており、パーパスブランディングなどの動きも加速しています。

パーパス経営とは

パーパス経営とは、パーパスに基づいて行われる経営のことを指します。企業の存在意義であるパーパスに基づいた経営を行い、社会に貢献することで、消費者にポジティブな印象を与えることができます。

パーパスブランディングとは

パーパスブランディングとは、パーパスを公表した上で、パーパス経営を進め、社会に貢献できる製品やサービスを提供することで、多くの消費者が共感できるようなブランドとして認知を広げることを目指すブランド戦略のことを指します。

多くの場合、長期間にわたり社会に貢献していることを示すことでブランディングが強化されていくため、パーパスブランディングは長期的なブランド戦略として捉える必要があります。

パーパスドリブンとは

ドライブ (Drive) の過去分詞系であるドリブン (Driven) は、日本のビジネスシーンでは「~に基づく」という意味で利用されます。例えば、Amazonの創業者であるジェフ・ベゾスが愛読したという「データ・ドリブン・マーケティング」は、データに基づくマーケティングという意味で、データドリブンの重要性を説いた名著です。

パーパスドリブンとは、掲げたパーパスに基づいた、という意味となります。パーパスドリブンな経営が重視されている、などの使い方で用いられる言葉と理解しましょう。

パーパスと類語の違い

パーパスと似た単語にMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)があります。

パーパスが最も根源的な問いであるのに対し、ミッションやバリューなど下流に行くほど具体的な指針になっていきます。以下、その関係を示した図です。この章ではミッション・ビジョン・バリューとの違いについて簡単に解説します。

パーパスと類語の違い

パーパスとミッションの違い

ミッション (Mission) は、「使命」と訳される単語です。パーパスと同じように上流の概念であるため、企業として果たすべき使命、やるべきこと、といった企業の根幹を成すことについて触れる言葉です。

では、パーパスとミッションの違いは何でしょうか。答えは「社会や他者との関わり方」にあります。ミッションが何を成し遂げるのか (WHAT) について語るのに対し、パーパスの本質は社会規範に基づいた他者への貢献とそれによる存在意義 (WHY) にあります。

パーパスとビジョンの違い

ビジョン (Vision) は、企業がなりたい未来を示します。将来の展望と言い換えても良いかもしれません。ビジョンを定めることで、企業やそこで働く従業員は目指すべき未来に向けてぶれずに邁進できるようになります。このように、ビジョンはどこに向かうのか (WHERE) を定めるものです。

企業の存在意義という高い目線についての概念であるパーパスと比べて、ビジョンはかなり足元の具体的なプランを見る言葉だと言えるでしょう。

パーパスとバリューの違い

バリュー (Value) は、ミッションやビジョンを実現させるための行動指針のことを指します。バリューはビジョンよりもさらに具体的な指針であり、将来の展望であるビジョンをどのように (HOW) 実現するかを定める指針と言えます。

バリューやミッションよりもさらに上流の概念であるパーパスと比べるとずっと具体的で、目の前の仕事に近い位置にある概念と言えるでしょう。

なお、バリューと似た言葉に「クレド」があります。クレドはミッションやビジョンに基づく価値を提供し続けるために、従業員ひとりひとりが守るべき信条や行動指針のことを言います。

パーパスが注目される背景

パーパスが注目される背景にはビジネスを取り巻く環境の急激な変化があります。グローバル化はさらに進み、企業戦略や組織の在り方が多様化し、雇用や働き方を取り巻く環境が変わり、従業員の価値観が変化し、テクノロジーが進歩し、消費者の行動が変わりました。ビジネスを取り巻く環境が短期間で大きく変わる今、良い製品を作ってさえいれば企業が成長する時代は終わりを迎えたと言えます。

とりわけ昨今では、企業は「ESG」を重視し、社会課題の解決に取り組み、長期的に成長を目指すことが求められるようになったことで、パーパスを掲げる必要性が増しています。

ESGとは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉であり、近年では消費者は社会的な責任を果たしている企業の製品やサービスを好むようになってきました。

また、働く従業員の意識や価値観も社会的責任を果たしているかを重視するようになってきており、給料よりも社会的意義を持った仕事かどうかでキャリアを選ぶ若い世代が増えてきたため、優秀な人材の確保に向けてもパーパスの重要性が高まっています。

とりわけ欧米ではこの傾向が強く、LinkedInが2016年に行った調査では、49%の回答者は給料が下がってもパーパスに共感できる企業で働きたいと回答しており、同じ給料ならばポジティブなパーパスを掲げている企業に優秀な人材が集まることが示されています。

企業が今後も成長を続けていくために、ポジティブなパーパスを掲げていくことが不可欠な時代が目前まで迫ってきていると言えるでしょう。

パーパスを策定するメリット

経営判断や意思決定の軸になる

パーパスはミッションやビジョンよりも高い視点で企業の存在意義を掲げます。パーパス経営を行うならば、あらゆる経営判断や意思決定はパーパスドリブンでなければなりません。

判断に迷った際は「この判断はパーパスに沿っているだろうか?」と自問することで、社会と企業にとって最良の判断が自然と下せるようになります。こうした経営判断や意思決定の軸となる点は、パーパスの大きなメリットです。

ビジネス環境の変化やDXの推進などを受けて、ビジネスモデルを変化させたり、新製品を開発したりと、時代に合わせて企業は変わり続ける必要があります。

しかし、変わりながらもぶれない軸を持つことも企業の持続的な成長には必要です。こうした軸を形成するのがパーパスだと言えるでしょう。

従業員のエンゲージメント向上

今、先進国を中心に働く人々の意識が変わりつつあります。給与や待遇だけを重視する価値観は古いとされはじめ、社会的意義や働く意味を問うビジネスパーソンが増えてきています。

どうせ働くのなら社会的に価値のある仕事をしたいと考えるのは当然のことです。ポジティブなパーパスを掲げることは、こうした従業員のエンゲージメントを高めるためのひとつの方法となります。

ポジティブなパーパスを掲げ、従業員がそれに共感しているならば、高い帰属意識を持って意欲的に働き、組織に貢献してくれることが期待できます。優秀な人材が集まり、定着率が上がり、サービスのレベルが上がることもあるでしょう。

人材の流動性がかつてないほど高まっている今、企業は従業員のワーク・エンゲージメントの向上に躍起になっています。近年話題となっている「健康経営」などをはじめ、企業は多くの取り組みを試していますが、パーパス経営は従業員のエンゲージメントを高めるひとつの方法として注目を集めています。

社会的意義と採用の強化

自社のパーパスを社内外に広く示して事業に取り組むパーパスブランディングを進めることは、一般消費者からの共感の獲得と、採用の強化の2つの面で大きなメリットを持ちます。

自社がいかに社会に貢献するかを周知させることは、消費者に選んでもらうための判断材料をひとつ増やすことにつながります。誰でも悪いことをしていそうな企業よりは、社会的意義を持った行動をしている企業を応援したくなるものです。価格や性能が近しい製品が複数あったならば、ポジティブなパーパスを掲げている企業が選ばれやすくなるのは当然です。

また、自社のパーパスブランディングが定着していけば、採用活動においてもパーパスに共感してくれる人材と出会いやすくなり、採用の強化につながります。パーパスに共感して入社した従業員はエンゲージメントも高まりやすく、長く活躍してくれることが期待されます。

パーパスを策定する際の5つの確認ポイント

社会的に意義のある内容か

企業としての存在意義を示すパーパスには、社会的に意義のある内容を設定すべきです。独りよがりで自社の利益のみを追求した社会への貢献を顧みない内容では、多くの共感を集められません。今問題となっている社会課題に対し、どのような解決を目指し、どのように貢献するのか、といった視点から社会的意義を見いだせる内容を設定しましょう。

自社の利益や成長につながる内容か

社会的意義のあるポジティブなパーパスを掲げることは大切ですが、企業が存続するためには利益を出さなければなりません。上場企業の場合、利益が出ていなければ株主が離れ、資金的な問題から意義ある事業からの撤退を迫られるかもしれません。

企業にとって利益は血液のようなもの。事業で利益を出し、その利益で事業を進めるような循環が必要です。身を削ったボランティアではなく、社会課題に対して事業として取り組み、正当な利益を上げつつ継続できるようなパーパスを設定しましょう。

自社のビジネスと一貫性がある内容か

パーパス経営を行う上で問題となるのが「パーパスウォッシュ」と呼ばれる状態です。パーパスウォッシュとは、掲げたパーパスと実際の活動が乖離してしまう状態を指す言葉です。

自社のビジネス領域と関係ないパーパスを掲げた場合、消費者や従業員から共感を得ることは難しく、事業としても苦戦が予想されます。こうした状況では、目先の状況を打破するために本来手を出すべきでない仕事に振り回され、パーパスウォッシュが起こりがちです。

パーパスは、自社のビジネス領域と一貫性のある内容を設定するようにしましょう。

従業員が共感しモチベーションが向上する内容か

パーパスブランディングは外に向けたメッセージとして消費者の共感を得ることに役立ちますが、同時に従業員のエンゲージメント向上や採用の強化にもつながります。

従業員が自身の仕事に胸を張れるようなパーパスを設定できれば、従業員のモチベーションやロイヤリティを高めることができます。パーパスは取引先や消費者など社外の人間に対するメッセージであると共に、社内の従業員にも共感される内容となるよう設定しましょう。

実現可能か

社会的意義のある崇高なパーパスを掲げようとするあまり、自社の現状や能力とかけ離れた内容をパーパスに設定してしまうことがあります。

しかし、あまりにも実現性の低いパーパスを掲げてしまった場合、多くの消費者や投資家は鼻白み、共感することなく見放してしまいます。社会的意義のある事業に挑戦しようとする姿勢は素晴らしいものですが、壮大になりすぎず地に足の着いた現実的なパーパスを設定するよう心がけましょう。

パーパスの成功事例3選

ソニー

クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす

ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスと、4つのバリュー「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」を掲げています。ソニーとは何者なのか、ソニーグループは何のために存在するのかを明確にすることで、多様な事業に従事する全世界11万人のソニーグループの従業員が、同じベクトルに向かっていくために考えたと言います。

こうしたソニーのパーパスは、新型コロナウイルス感染症によるアメリカのロックダウン時における従業員の行動にポジティブな影響を与えたと言います。当時、ロックダウンで自宅から出られなくなったことで、ソニーの主力商品であるプレイステーションのネットワークへのアクセスが急増し、ソニーは困難な状況に置かれました。しかし、長引くロックダウンの中でも少しでもエンタテインメントを届けようと従業員ひとりひとりが努力したことで難局を乗り切ることができたと言います。

このように、ひとりひとりがパーパスに向かって行動したからこそ、ソニーは2020年度に過去最高益を出せたと、CEOの吉田憲一郎氏は経営方針説明会で語ったとのことです。

ネスレ

食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます

コーヒーで有名な世界最大の食品飲料会社であるネスレは、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」というパーパスを掲げています。

このパーパスの元、ネスレは2030年までの長期目標としてSDGsの達成を支援する次の3つの目標を掲げています。

  • 5,000万人の子供たちがさらに健康な生活を送れるように支援
  • ネスレの事業活動に直結するコミュニティに暮らす3,000万人の生活を改善
  • ネスレの事業活動における環境負荷ゼロ

こうしたパーパスを実現するため、ネスレは「個人と家族のために」「コミュニティのために」「地球のために」という3つの領域で活動を展開しています。

健康的なコーヒー引用習慣を推奨したり、沖縄の耕作放棄地を有効活用した大規模な国産コーヒー栽培を行って県の一次産業の問題解決を目指したり、リサイクル・リユース可能なパッケージの利用を推進したりと、ネスレは社会的意義の高い多様な事業に取り組んできました。

ネスレのパーパスに基づく活動は、個人の習慣を少しだけ良い方向に変えたり、社会問題を解決したり、サステナブルな社会を目指したりと、多くの結果を残しており、企業としてポジティブなブランドイメージ作りに大きく貢献しています。

富士通

イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと

富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」をパーパスとして掲げています。富士通ではパーパスに則り、サステナブルな世界を実現するために注力する以下の7分野を制定しました。

  • Sustainable Manufacturing
  • Consumer Experience
  • Healthy Living
  • Trusted Society
  • Digital Shifts
  • Business Applications
  • Hybrid IT

例えば「Trusted Society」の領域では、地球環境に配慮しつつ、私たちの社会生活を守り、より良くしていく都市づくりを目指して事業を進めてきました。豊かさ、安心・安全、サステナブルなどの観点で社会創りを進めるために、官民が連携して社会課題の解決に取り組み、イノベーションを促進してきました。

英国環境庁との取り組みの事例では、富士通が構築したシステムによって市民に迅速に警報を伝えることが可能になったほか、リスクの高いグループに最も有効な通報チャネルで自動的に通報することを実現したと言います。

富士通は今後さらに多くの命を守るための仕組みを開発していくとのことです。こうした富士通の取り組みは、サステナブルな社会の創造に向けて高い評価を得ていると言います。

パーパスに関連する書籍

パーパス 「意義化」する経済とその先

書籍名
パーパス 「意義化」する経済とその先
筆者
佐々木康裕 / 岩嵜博論
出版社
NewsPicksパブリッシング
発売日
2021/8/26
URL
https://www.amazon.co.jp/dp/491006317X

パーパスとは何かを体系的に解説した書籍。単にパーパスの意味を知るだけでなく、パーパス起点のビジネスのあり方を知り、ビジネスに実装し、今後の社会とビジネスのあり方を学べる良書として、発売から間もないながらも口コミで評判を生んでいいます。

パーパス・ドリブンな組織のつくり方 発見・共鳴・実装で会社を変える

書籍名
パーパス・ドリブンな組織のつくり方 発見・共鳴・実装で会社を変える
筆者
永井恒男 / 後藤照典
出版社
日本能率協会マネジメントセンター
発売日
2021/12/22
URL
https://www.amazon.co.jp/dp/4820729772

パーパスについて体系的にまとめつつ、後半で具体的な事例を交えて詳しく解説している本。パーパスの策定方法なども具体的に示されており、パーパス経営を実践したい人にお勧めしたい一冊だと言えます。

Harvard Business Review PURPOSE

書籍名
Harvard Business Review PURPOSE
筆者
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部
出版社
ダイヤモンド社
発売日
2021/10/6
URL
https://www.amazon.co.jp/dp/4478114676

雑誌「DIAMOND Harvard Business Review」本誌で好評を博した内容の単行本版。パーパスの意味から実践まで、幅広く解説した一冊です。パーパスを利益に結び付ける方法や、共感を生む経営、企業がブランド・コアを見つける方法などについて解説しています。

まとめ

ビジネスを取り巻く環境は急激に変化し、消費者や従業員の意識も変わりつつあります。SDGsなど地球環境への配慮や、サステナブルな社会の形成も避けられないテーマとなりました。今、企業は優れた製品やサービスを提供していれば良いという時代ではなくなったと言えます。企業には社会的意義のある活動が強く求められています。

パーパスドリブンな経営を進め、パーパスブランディングを強化しなければ、消費者や従業員、株主や投資家などから共感を得られない時代は目の前までやってきています。

こうした流れは欧米では特に進んでおり、日本はむしろ世界の潮流に乗り遅れてしまっていると言えます。多くの企業がより良い社会を目指すための存在意義を掲げ、個人や社会、世界が少しでも良い方向に進んでいくことを願っています。

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