エンプロイアビリティとは?市場価値を高める方法とチェックシート

エンプロイアビリティとは

エンプロイアビリティとは「Employ:雇用する」と「Ability:能力」を組み合わせてつくられた単語で、「個人が企業から雇用され得る能力」のことを言います。企業側から見て、いかに雇いたいと思えるか、または継続して雇用したいと思えるか、という個人の能力がエンプロイアビリティです。労働市場での市場価値と言い換えることができるかもしれません。

エンプロイアビリティを構成する能力には、資格や知識、技能といった学習で身に着けられるものから、モチベーションや人柄、人脈、適応能力等の個人の人間力といった要素まで広く総合的に含まれてきます。

日本では1998年の労働白書(平成10年版労働経済の分析)にすでにこのエンプロイアビリティという言葉が登場しており、ここでは「長期雇用慣行の下にある者も含め、予期せぬ(あるいは自ら望んだ)労働移動に備え、外部労働市場で通用し企業に雇用されることを可能にする職業能力(エンプロイアビリティ)を磨くことが必要となってくる。」とその重要性が記載されています。

新たな雇用を求め就職活動をするとき、そこに留まりその雇用を維持するとき、または環境の変化に合わせ異動や転職を志すとき、いかにビジネスパーソンとして自分のエンプロイアビリティを磨き高めてきたか、が重要となってきます。

エンプロイアビリティが注目される理由

近年エンプロイアビリティが注目されている理由として、日本での個人の働き方に変化が訪れ、転職を視野に入れたキャリアマネジメントが必須となってきていることが挙げられるでしょう。

終身雇用制度が崩壊し労働市場の流動性が高まる中で、いかに自分の市場価値を高めてキャリアアップにつなげるかは全てのビジネスパーソンにとって重要なことです。経団連が2020年3月に発表した報告書「Society 5.0時代を切り拓く人材の育成―企業と働き手の成長に向けて」でも、今後のビジネスパーソンにはエンプロイアビリティが求められると述べられています。

また、エンプロイアビリティを人事評価の項目として取り入れている企業も年々増えてきています。労働者の能力向上は当然企業の生産性と利益に直結するものですし、その環境がある・成長を感じられるという点は現代の働く人にとって大きな魅力となります。業界や職種を問わず求められるスキルである「ポータブルスキル」などはエンプロイアビリティの向上につながる指標ともなり、近年注目を集めています。

また、従業員が働く中でエンプロイアビリティを高めて後に転職や独立をしたとしても、その先で大きな成果を残してくれれば「優秀な人材を輩出した」として企業の価値が高まるケースもあります。リクルートなどはこの最たる例の一つでしょう。自社の社員のエンプロイアビリティ向上は、結果的に就職・転職市場でのアドバンテージにもつながるのです。

このようにエンプロイアビリティの向上は、従業員にとっても企業にとっても有用な効果を発揮します。その環境づくりは日本企業が競争力を高めるために避けて通れないテーマと言えるでしょう。

エンプロイアビリティの種類

エンプロイアビリティには、組織との関係からみた「内的エンプロイアビリティ」「外的エンプロイアビリティ」と、労働市場の需要と供給からみた「絶対的エンプロイアビリティ」「相対的エンプロイアビリティ」といったものが挙げられます。この章ではそれぞれについて詳しく解説していきます。

内的エンプロイアビリティ

今所属している企業から評価され、継続して雇用され得る能力のことを「内的エンプロイアビリティ」と呼びます。自社製品の知識の豊富さや、組織固有のスキルの高さはこの内的エンプロイアビリティに含まれます。

その組織で高い業績を上げ続ける人材、もしくはその組織にとってなくてはならない存在は「内的エンプロイアビリティが高い」と言えます。逆に言えば内的エンプロイアビリティが高ければ、万一その組織が経済的に困窮しリストラを行うことになっても、その候補に挙がりにくくなるでしょう。

かつて日本経団連は「日本型エンプロイアビリティ」と銘打ち、日本の各企業は従業員の内的エンプロイアビリティをどのように高めていくかに重点をおくべきだと唱えました。内的エンプロイアビリティの育成はその組織の利益に直結しており、また終身雇用を望みその組織に残り続けたいと思う従業員側からのニーズも根強く残っています。

外的エンプロイアビリティ

組織に残り続けるための能力が前述の内的エンプロイアビリティだとすれば、外部の組織から新たな雇用を得るための能力、すなわち転職市場での市場価値の高さ・能力のことを「外的エンプロイアビリティ」と呼びます。

広く応用が可能な資格の取得やビジネスパーソンとしての経験(例えばマネジメント経験や特定分野の深い知識、海外での業務経歴など)の積み重ね、ポータブルスキルや人間性の研鑽は、どれも外的エンプロイアビリティを高めることと言えるでしょう。

人材の流動性の高い現代の雇用環境では、今すぐ転職を考えていなくとも、日常の仕事などを通して外的エンプロイアビリティを磨き続けておくことが生き残りの鍵を握るとも言えるでしょう。

絶対的エンプロイアビリティ

労働市場の需要から考えたとき、いつの時代でも求められる能力、世界状況によって左右されにくい・影響を受けにくい安定した評価を受けられる能力やスキルのことを「絶対的エンプロイアビリティ」と呼びます。

例えば医師や士業などの国家資格の保有や、社会を維持するために欠かせない仕事で必要な専門知識な特殊技能の取得などは「絶対的エンプロイアビリティ」に含まれます。

相対的エンプロイアビリティ

不変の価値につながる能力である絶対的エンプロイアビリティに対して、時代や景気など、様々な要因によってその価値が変動しやすい能力のことを「相対的エンプロイアビリティ」と呼びます。

かつて時代のニーズによって必用とされた技能や職業も、技術の進化やビジネス環境の変化、景気の変化などによって消えてしまったものも数多くあります。自動車の発明により馬車に関わる産業は衰退し、馬を操る御者の技術は必要とされなくなりました。

IT技術の進歩により必要とされなくなった仕事やスキルも多くあります。逆に、今注目されていない技能や技術が、ある日を境に日の目を見て、急激に求められ価値が上がることもあるでしょう。現在の先端技術とされるAI技術も、いつかより優れた仕組みに取って代わられるかもしれません。これらは結果的に相対的エンプロイアビリティであったと言えます。

なお、こうした観点から見ると、AIやIoTなどの先端IT技術の近年の急激な発展により、今までは絶対的エンプロイアビリティであると思われていた資格やその職業も未来永劫残り続ける保障は誰にもできなくなってきました。非常に速いスピードで移り替わる現代、何が絶対的エンプロイアビリティであるかを見極めること、また相対的に移り変わるエンプロイアビリティを素早くキャッチして自分のものにするのかという力が重要になります。

エンプロイアビリティを高めるメリット

エンプロイアビリティを高めるメリットとして、以下の3点が挙げられます。

社内でのキャリアアップにつながる

所属している企業内でのエンプロイアビリティを高めるということは、その企業が求める知識とスキルを得て、その企業になくてはならない人材になるということです。内的エンプロイアビリティを磨けばそのぶん社内での評価向上とキャリアアップにつながる可能性は高くなるでしょう。

転職でのキャリアアップにつながる

エンプロイアビリティは労働市場での市場価値です。特に外的エンプロイアビリティを高めることはすなわち転職の可能性を広げ、より優位な条件で転職しやすくなるということです。市場の求めるエンプロイアビリティを見極め高めることが出来れば、転職を通したキャリアアップの可能性も大きく高まるでしょう。

生産性向上につながる

エンプロイアビリティを高めることはそのまま、自らの就業能力を高めるということです。知識や経験を得て、スキルを磨き自己成長することで、ビジネスシーンにおける生産性は必ず向上していくことでしょう。

エンプロイアビリティの要素と厚生労働省のチェックシート

エンプロイアビリティは複数の能力が重なり合って作られる総合的な力であるため、定量的にわかりやすい形で評価したり、視覚化したりすることは困難です。しかし、各種設問などに回答することで大きな方向性を可視化するためのチェックシートなどは存在します。

厚生労働省は、若者向けキャリアコンサルティング技法として「エンプロイアビリティチェックシート」を公開しています。このエンプロイアビリティチェックシートでは、エンプロイアビリティを構成する各要素について細かく設問が設けられており、YES/NOで回答したり、特にあてはまるものに○を付けたりすることで、エンプロイアビリティを自己診断することができます。

エンプロイアビリティチェックシートでは、大きく分けると下記の項目をエンプロイアビリティの構成要素として掘り下げています。

エンプロイアビリティチェックシート

エンプロイアビリティを高める方法

エンプロイアビリティチェックシート 上記の通りエンプロイアビリティには様々な種類があり、エンプロイアビリティを高める方法も多く存在します。以下にその例を挙げます。

資格を取る/学校に通う

ビジネスに応用できる資格を取ることでエンプロイアビリティの向上が期待できます。特に目指す分野に関連した資格や、難易度が高く有用な資格を取ることが有効でしょう。また特定の技能を得るために専門学校に通ったり、会社で働きながら社会人枠で大学院に通って学位を取ったりといったこともエンプロイアビリティを大きく高める方法の一つです。このように一度社会に出てから必要なタイミングで教育機関に戻り改めて学び直すことを「リカレント教育」と呼び、近年注目を集めています。

社会人が学びを得られる機会を調べてみると、学校や公的機関、会社の福利厚生など多くの場が提供されています。これらをうまく活用してエンプロイアビリティを高めましょう。

普段の仕事で求められる知識や能力を深める

普段の仕事を意識的に取り組むこともエンプロイアビリティを高めることにつながります。改めて考えれば当然のことですが、日々のビジネスの中で求められる能力は多岐に渡ります。自社のサービスや製品に関する専門知識などの内的エンプロイアビリティから、コミュニケーションスキルやマネジメント能力、計画力、実行力、思考力などのポータブルスキルまで、多くを学ぶつもりで取り組めば普段の仕事から身に付けられる能力は少なくありません。

現場は教材の宝庫です。人間はどのような経験からも学びを得て、自分の力とすることができます。また、エンプロイアビリティを高めて社内外での評価が高まれば、多くの情報が自然と集まり、学びの機会をより得やすくなっていきます。日々のビジネスや周囲の人間からひとつでも学びましょう。

コンテストに応募する/ハッカソンに参加する

企業によっては転職エントリー時に「今までの受賞歴」が評価されるケースもあります。ビジネスコンテストでの経験などは好意的にみられる場合も多くあります。特にIT業界であれば、ハッカソンに参加し切磋琢磨して能力を磨くことも良い経験となるでしょう。アウトプットをするためには、より多くのインプットが必要です。コンテストやハッカソンなどのアウトプットを意識することで、自然と知識や技術、能力などが磨かれるはずです。

まとめ

転職が当たり前となった現代、自らのキャリアをデザインしそれに合わせ自らの能力を絶えず向上させていくことは必須のこととなりました。自分のキャリアに必要な能力やスキルを見極め積極的に学び、エンプロイアビリティを高め、社会に還元していくことがこれからの時代を生き抜く鍵となります。ビジネスパーソンとして常に自分の市場価値を意識し高めていくことは、必ずその先のキャリアアップと豊かな人生に結び付いていくでしょう。

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