リファレンスチェックとは?主な質問項目と拒否できるのか
目次
リファレンスチェックとは?
リファレンスチェックとは、中途採用のプロセスにおいて企業側が採用予定者や内定者の情報を、第三者を通じて確認することを指します。リファレンス (reference) は「参照する」という意味の英単語で、応募書類や面接からは見えない情報を確認したり、書類に面接で語られた情報が事実かを確認したりするために、第三者に問い合わせて参照することからリファレンスチェックと呼ばれます。
リファレンスチェックでは、主に前職での勤務状況や業務実績、人物像などを確認します。転職志望者以外の第三者からこうした情報を得ることで、企業側は転職志望者の実際の姿をより正しく理解してギャップやミスマッチを防ぐことができます。
リファレンスチェックは企業が自ら行うこともあれば、外部委託を行って実施する場合もあります。しかし、どちらの方法で行われるにせよ転職志望者に無断で行われることはなく、転職志望者の了承を得て行われます。企業は転職志望者の了承を得た上で、前職の上司や同僚などから電話やメールなどによりヒアリングを行います。
リファレンスチェックを行うタイミングはさまざまですが、内定前後に行う企業が多いため採用を前提とした最終確認のために行われることが一般的です。
リファレンスチェックの目的
リファレンスチェックは転職志望者について理解を深めることを目的に行われます。人物像や勤務状況を理解した上でミスマッチがない採用を行うことは、ワークエンゲージメントを高め、離職率を抑えることにつながります。人格や能力が社風や業務内容と噛み合い、能力を十全に発揮し、長く活躍してもらうことを、企業は社員に期待します。採用段階でリファレンスチェックを行うことは、客観的な視点から転職志望者がマッチするかを把握する手段として有効だと言えます。
こうしたリファレンスチェックの実施は、より転職が身近な外資系企業で積極的に行われる傾向があります。エンワールド・ジャパン株式会社の調査によれば、中途採用者のリファレンスチェックの実施率は外資系企業で58%にものぼっています。またリファレンスチェックが採用の判断に影響すると回答している企業は68%に達しています。
リファレンスチェックのメリット
転職志望者のメリット
転職志望者側にとってリファレンスチェックを行うメリットは、自己アピールにつながる点です。応募書類や面接で伝えることになる自身のアピールポイントについて、客観的な証言が信ぴょう性を底上げします。
面接などで転職志望者自身が自らの強みや実績を一生懸命に語ったとしても、企業はその内容が誇張されていないか確証を得られず、実績や能力に対して十分な評価が得られない可能性もあります。しかし第三者からの客観的な評価や証言が加われば、面接などで語られた内容の信ぴょう性が増すため、高い評価につながることもありえます。
採用のステップの中でリファレンスチェックを実施しても良いかと聞かれると、信用されておらず身辺調査をされるようなネガティブな印象を受けがちですが、転職志望者側にとってもメリットがある話として積極的に協力すると良いでしょう。
企業側のメリット
企業側にとってもリファレンスチェックのメリットは大きいと言えます。代表的なメリットとしては以下が挙げられます。
- ミスマッチを防げる
- 客観的な評価や面接で語られなかった情報が手に入る
- 入社後のマネジメントに活用できる
- 経歴詐称を防げる
企業は職務経歴書や面接を通して転職志望者が自社にマッチしているかを判断していきます。しかし入社後にスキルが求めていた水準になかった、社風に合っていなかったなどのミスマッチを起こしてしまうケースも少なくありません。リファレンスチェックで情報を得て判断材料を増やすことで、こうしたミスマッチが起こる可能性を抑えることができます。リファレンスチェックで転職志望者の人間性や価値観を知ることができれば、入社後のマネジメントにも活かせるでしょう。
また、転職志望者の中には職歴や実績などについて詐称する者もいます。リファレンスチェックを行うことでこうした経歴詐称などを防ぐことができるほか、リファレンスチェックが行われるとわかっている企業には経歴詐称などを考えている者は応募しにくくなるため抑止にもつながります。
求めているスキルや能力、適性などを持つ人物を正しく見抜き、ワークエンゲージメントを高めて長期間働いてもらうために、リファレンスチェックは多くのメリットを持つと言えます。
リファレンスチェックは違法じゃないの?
第三者から転職志望者の情報を得るリファレンスチェックは違法になるのでしょうか。結論、現在日本にはリファレンスチェックそのものを禁止する法律はありません。しかし転職志望者の同意を得ずに無断で個人の情報を聞いてまわり、採用に利用すると違法になる可能性があります。
リファレンスチェックで取り扱う転職志望者の情報は個人情報です。個人情報保護法 第一章 第十六条および第十七条では、本人の同意を得ず要配慮個人情報を取得してはならない旨、特定の利用目的の範囲外では個人情報を取り扱ってはならない旨が記載されています。
そのため、リファレンスチェックを行う際は、企業はあらかじめ転職志望者の同意を得て実施しなければなりません。
リファレンスチェックを拒否したらどうなるのか
企業からリファレンスチェックへの同意を求められたとき、転職志望者はそれを拒否することができます。個人情報に当たる重要な情報の収集を断る権利は当然あります。しかし、リファレンスチェックを拒否してしまうと、企業からの心証は悪化する可能性があることを理解しておく必要があります。
企業側は悪意を持ってリファレンスチェックを行うのではなく、より深く転職志望者を理解してミスマッチを防ぐためにリファレンスチェックを行います。それを拒否してしまうと、相互理解に協力する姿勢がないのではないか、何かやましいことがあるのではないか、などといった疑いを持たれてしまう原因となってしまいます。
とは言え、中には転職活動をしていることを現職の職場に知られたくないなどの理由から拒否したいと考える転職志望者もいるでしょう。そのような場合は企業側にきちんと理由を伝えることが大事です。場合によっては、現職の上司や同僚以外の第三者を紹介する、経歴証明のために卒業証書を提出する、などの方法で対応できるケースもあり、企業側も相談に応じてくれることが多いはずです。
リファレンスチェックの主なやり方・流れ
STEP1:時期を決める
リファレンスチェックを行うタイミングは実施する企業によってさまざまです。エンワールド・ジャパン株式会社の調査によれば、最終面接の後に行うと回答した企業が62%で最多となっています。自社にとってどのタイミングで行うのが適切なのかを検討し、目的に合わせて実施する時期を決めると良いでしょう。
STEP2:転職志望者の同意を得る
リファレンスチェックを行う場合は必ず転職志望者の同意を得ます。なぜリファレンスチェックを実施するのかを丁寧に説明をすることで理解を得るようにしましょう。日本ではリファレンスチェックはまだ十分に浸透していないため、場合によっては説明資料を用意しても良いでしょう。
STEP3:推薦者を探す
転職志望者の同意を得られたら、推薦者を探していきます。推薦者の探すパターンは「転職志望者側が探す」「企業側や調査会社が推薦者を探す」という2つのパターンがあります。
転職志望者側が探す場合は、現職の職場の上司や同僚などを推薦者として指定するケースが多いと言えます。その際は2名以上の推薦者を選定することが一般的です。
企業側や調査会社が推薦者を探す場合は、転職志望者の現職の勤務先へ電話をする、SNSを通じて探す、などの方法で推薦者を探していきます。
STEP4:ヒアリングを実施する
推薦者が決定したら日時を合わせて、電話やメールなどでヒアリングを実施します。実施する際は事前に質問項目を固めておき、スムーズにチェックを行うようにしていきます。徐々にリファレンスチェックが浸透してきた近年では、リファレンスチェックをサポートするためのサービスも存在しており、円滑な実施のために利用することも検討の余地があります。
リファレンスチェックの主な質問項目
勤務実績
転職志望者の職務経歴書と相違がないか、在籍期間や職務経歴について確認していきます。
- 在籍期間はいつからいつまでか
- 役職はどのようなものを経験したか
- マネジメント経験はあるか
- 現職の前はどのような会社に勤めていたか
人物像
続いて転職志望者の人物像についての質問です。勤務態度、転職志望者の価値観、人間関係などについて確認していきます。
- 勤務態度は真面目だったか
- 遅刻や欠勤はなかったか、あったとしたらどの程度の頻度か
- 周囲とトラブルはなかったか
- 職場でのコミュニケーションは適切だったか
- 周囲からどのような人物だと認識されていたか
- 仕事に対してどのような価値観を持っていたか、何を求めていたか
- 仕事ではどのような悩みを持っていたか
- どのようなキャリアビジョンを持っていたか
職務能力
最後に職務能力についての質問です。これまでの実績や強みや弱みなどを確認していきます。
- 仕事に対して積極性や主体性を持って取り組んでいたか
- プロジェクトに取り組む際の姿勢や工夫はどうだったか
- リーダーシップはあるか
- 主な実績や成果はどのようなものだったか
- 問題やトラブルに直面した時にどのように対応していたか
- どのような強みや弱みを持つか
- どのような仕事で力を発揮する人物か
企業がリファレンスチェックを行う際に注意すべきこと
「リファレンスチェックは違法じゃないの?」の章で伝えた通り、リファレンスチェックで取り扱う転職志望者の情報は個人情報であるため、適切に実施する必要があります。
大前提としてリファレンスチェックは必ず転職志望者の同意を得て行わなければなりません。転職志望者に黙って実施したり、転職志望者が拒否したにも関わらず勝手に実施したりした場合、違法となる可能性もあります。
転職志望者にリファレンスチェックの実施について同意してもらうために、なぜ行うのか丁寧に意図を説明して不信感を与えないことが大切です。もし転職志望者にリファレンスチェックの実施を拒否されたら、現職の職場に転職活動をしていることを露見されたくないなどの不安があって拒否しているのか、何らかの代替手段を用いて第三者から評価を聞いても良いかなど、真摯な姿勢で相談してみると良いでしょう。
またリファレンスチェック実施後についても注意が必要です。ヒアリングを通して転職志望者のさまざまな評価や評判を収集できますが、この結果のみを鵜呑みしないよう注意しましょう。回答に偏りがあって正しい評価の妨げとなるケースもあります。エンワールド・ジャパン株式会社の調査によれば、リファレンスチェックの欠点として「回答の信憑性が判断しづらい」、「回答者の属性によって回答に偏りが生じる可能性がある」などが挙げられています。あくまでひとつの判断材料と考えることが重要です。
なお、リファレンスチェックを行なった後に内定の取り消しを行なってしまうと、労働契約法 第二章 第十六条違反となる可能性があります。内定契約書の取り交わしが行われている場合、労働契約を結んでいるものとみられるからです。
このようにリファレンスチェックを行う際は、企業側は細心の注意を払いながら慎重に進めていくことが求められます。
転職志望者がリファレンスチェックに向けて注意しておくべきこと
外資系企業はもちろん、国内の企業でもリファレンスチェックの実施が徐々に増えてきています。企業からリファレンスチェックを求められても慌てることがないよう、きちんと準備をしておくことが重要です。
大前提として、転職を考えている方はリファレンスチェックを求められて困らないためにも、職務態度や人間関係に問題があると現職で見なされないような真面目な立ち居振る舞いを心がけましょう。
また、転職先の企業からリファレンスチェックを求められた際は、信頼できる人物や自身に対して悪い印象を持っていない人物を推薦するようにしましょう。採用の可否に関わるため、推薦者に対してはリファレンスチェックに協力してほしい旨を丁寧に説明する必要があります。
止むを得ない事情でリファレンスチェックを拒否する場合は、その理由を明確に伝えましょう。理由なくリファレンスチェックを拒否すると企業からの心証が悪化しがちなため、しっかり説明を行い企業側と交渉する必要があります。
まとめ
企業と転職志望者の相互理解を深めるために行われるリファレンスチェックは、徐々に日本の採用現場にも浸透してきています。自身のことを嗅ぎまわられるようでネガティブなイメージを持ちがちなリファレンスチェックですが、実際には転職志望者側にとってもアピールにつながる場でもあります。リファレンスチェックと上手に付き合うことが、今後の転職活動では求められていくことでしょう。
採用のミスマッチは企業にとっても転職志望者にとっても不幸な事態を招きます。リファレンスチェックを上手に活用して、双方にとって成長につながる転職活動が実現されることを願います。
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