CHROとは?役割・仕事内容・年収・CEOやCOOとの違い【総解説】

CHROとは

CHRO (Chief Human Resource Officer) とは、経営戦略に沿った人事戦略の立案や執行を行う「最高人事責任者」のことを指します。CHROは人事を通して企業の成長に責任を持つ経営陣の一員であり、人事と経営の両面に精通していることが求められるポストです。

4大経営資源と呼ばれる「ヒト・モノ・カネ・情報」のうち、ヒトを統括するCHROはそれだけ重要なポジションと言えます。

外資系企業では人事戦略のトップとしてCHROが設置されることが珍しくありませんが、日本ではまだまだ浸透しきっておらず、CHROの肩書を持っていたとしても人事部長としての役割に終始しており、経営陣としての役割まで担っていないケースも多いと言えます。また、CHRO相当の役割を担っている経営メンバーであっても、「取締役人事部長」や「執行役員人事部長」などの肩書を名乗ることも多く、日本においてCHROはまだまだ一般的とまでは言えない状態です。

なお、CHROと同じ意味でCHO (Chief Human Officer) が用いられることもあります。

CHROの役割と仕事内容

人事戦略の立案・執行

CHROの大きな仕事のひとつが、経営戦略に沿った人事戦略を立案・執行することです。ここで重要なのは「経営戦略に沿った」という部分です。CHROは人事部門を統括するだけでなく、人事の視点から経営戦略に携わり、企業の価値向上に貢献することを役割としています。したがって、経営戦略と人事の両方を理解する能力が必要です。

経営戦略を実現するためにはどのような人材をどれくらい登用すべきか、既存の社員をどのように育成すべきか、どのように人材を配置するかなど、経営戦略に沿った人事戦略を策定・執行し、企業の財産である「ヒト」を最大限に活かすことが、経営戦略を人事面から支えるCHROの役割と言えます。

人事評価制度の策定

人事評価制度の策定と運用もCHROの役割のひとつです。経営戦略の実現と噛み合った評価指標を設定し、実際に運用した上で、現場で働く従業員の意見を吸い上げ、指標の有効性を定期的に確認し、時代や状況に合わせて指標や評価制度の在り方を調整することがCHROには求められます。

人材育成

経営戦略に沿った社員の育成もCHROの役割です。経営戦略を実現するために必要な人材を外部から獲得する採用戦略と同じくらい、既存の人材を育成することは重要な仕事です。企業が成長していくためにはどのような人材が必要か、経営課題を解決するためにはどのような教育を実施すべきかなどを考え、育成計画を立案・執行することがCHROには求められます。

また、こうした人材育成は営業からバックオフィスまで部門を問わず必要なだけでなく、若手からマネジメント層まで幅広いポジションに対し実施する必要があるため、CHROは各部門と連携して組織全体の人材育成に取り組むことが求められると言えます。

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などの浸透

企業のミッション・ビジョン・バリューなどを組織で働く従業員全体に浸透させ、望ましい企業風土や企業文化を創り出すことも、経営陣の一員であるCHROが果たすべき役割です。

企業全体を見渡して労働環境や職場環境は優れているか、従業員のエンゲージメントは十分か、などを把握し、企業の財産たる「ヒト」が自然とミッション・ビジョン・バリューに沿って行動し、能力を発揮できる組織づくりを行うのがCHROだと言えます。

CHROが必要とされる背景

労働力人口の減少

言うまでもなく、「ヒト」は企業の成長の鍵を握る重要な経営資源です。利益の源泉は間違いなく「ヒト」にあります。必要なタイミングで、必要な人材を、必要な部門に回すことができなければ、スピード感を持ったビジネスを続けることはできません。

一方、優秀な人材の獲得は年々困難になってきています。背景には「労働力人口の減少」があります。日本では少子高齢化による労働力人口の減少が大きな課題となっています。みずほ総合研究所の調査によれば、2020年に6,404万人の労働力人口が、2030年には5,880万人、2050年には4,640万人と急激に減少すると予測されています。

人材獲得競争が熾烈を極める中、優秀な人材を確保するためには、高い視点で人事戦略を策定・遂行できるCHROが重要な役割を担っていると言えます。

スピード感のある人事戦略が必要なビジネス環境

デジタル化の波はビジネスのスピードをかつてないほど速くし、ビジネス環境を激変させてきました。AIなどの先端IT技術を使ったサービスは既にありふれており、技術者以外のビジネスパーソンにもデジタルリテラシーが当たり前に求められる時代になっています。

グローバル企業を中心に、全社員にデジタルリテラシーやプログラミングに関するスキルを「リスキリング」することも世界的な流れになっています。現代において、スピード感のあるビジネスを実現するためにはデジタルリテラシーが不可欠です。

こうした環境では、優秀な人材を新たに獲得する採用戦略においても、既存の人材を育てる人材育成戦略においても、CHROの実力が問われます。経営戦略を実現するために必要な人材を見極め、スピード感を持って人材獲得競争を勝ち抜いて採用するためには、経営と人事に対する高いレベルの知識と経験を持つCHROが必要とされています。

CHROに求められるスキル

人事・労務の専門知識

「最高人事責任者」であるCHROは、大前提として人事労務の専門性を高いレベルで有していなければなりません。現場の人事労務の担当者が行う労務管理や採用に関する業務を熟知している必要がありますし、適法に人事戦略を策定するためには労働基準法や最新の法令なども押さえておく必要があります。

人事マネジメントのスキル

市場動向や競合他社の動きといったビジネス環境を踏まえた上で、社内各所の業務内容や課題を把握し、経営戦略を実現するための人事戦略を立案し、人事部や関係各所と協力して実現まで運ぶ能力がCHROには不可欠です。組織全体の理解と、戦略を実現するためのマネジメント能力がCHROには求められると言えるでしょう。

経営スキル

経営陣の一員として人事の面から企業成長を支えるCHROには、高いレベルの経営スキルも求められます。最適な人事戦略を立案して人事面からCEOを支えるためには、市場動向や競合他社の動きだけでなく、社会情勢や最新のデジタル技術、ターゲット層の購買行動の変化など、経営に関わる情報を収集・分析し、今後の展望を見通せなくてはなりません。

コミュニケーションスキル

CHROは経営陣と経営戦略を練り上げたり、現場の中間管理職や従業員をマネジメントしたりと、多くの人とコミュニケーションを取りながら仕事を進めます。

CHROは人事面において、経営陣と現場をつなぐ橋渡しの役割を担っているとも言えます。ときには人事面での課題を切り口に経営方針に物を申さなければならないこともあるでしょうし、現場と意見が対立することもあるかもしれません。

重要な経営資源である「ヒト」は感情の生き物です。人事を統括するCHROは、コミュニケーションを通して円滑に人事戦略が進むよう努めることが求められます。

CHROの年収と待遇

CHROは人事を統括する経営陣の一員であるため、相応の年収が提示されることが多いと言えます。企業の規模や都道府県などによって年収に差があるため一概には言えませんが、一般社団法人人材サービス産業協議会が発表した「転職賃金相場2021」によれば日系企業の人事責任者の年収相場は1,000万円からとされています。

また、グローバル人材に特化した人材紹介会社であるロバート・ウォルターズ日本法人の調査「給与調査 2020 日本」によれば、人事ビジネスパートナーが1,000~2,100万円、人事ディレクターが1,850~3,000万円と記載されており、外資系企業などではCHROの年収はより高く設定されがちであると思われます。

一方、他の取締役やCXOと同様に、経営陣であるCHROは業績に対する責任も負っており、業績が悪化した場合は収入が減ってしまう可能性もあります。

CHROになるまでの年数

CHROになる平均年数

何年でCXO/取締役になる?マザーズ上場300企業を分析」の記事では、300社のマザーズ上場企業の公式サイト調査を通じて462人のCXOや取締役の経歴を調べました。本調査では、ほとんどの企業でCHROの肩書を持っている役員がおらず、十分なデータ量が集まりませんでしたが、得られたデータの範囲では大半のCHROが入社と同時にCHROに就任していることがわかりました。

マザーズで上場する企業のように勢いを持って上場を目指す若い企業の場合、十分な人事の経験とスキルを持った外部のビジネスパーソンをCHROとして迎え、成長に向けて人事戦略を強化していることが想像されます。

関連記事:何年でCXO/取締役になる?マザーズ上場300企業を分析

CEO・COO・CMOなどとの違い

CEOやCOOなど、いわゆるCXOと言われるポジションはCHROと混同されがちです。本章ではそれぞれの違いについて簡単に解説していきます。

CEOとの違い

CEOとは「Chief Executive Officer」の略称で、日本語では「最高経営責任者」です。日本では代表取締役がCEOを名乗るケースが多くあります。一般的にイメージされる社長がCEOの役割を担っていると考えれば良いでしょう。

CHROが人事部門を統括する責任者であるのに対し、CEOは最高経営責任者の名の通り、経営方針や経営戦略の意思決定をして責任を負うことを役割とする、経営の総責任者と言えます。

COOとの違い

COOとは「Chief Operating Officer」の略称で、日本語では「最高執行責任者」です。日本では副社長がCOOを名乗るケースが多くあり、企業のナンバー2といったイメージで捉えられています。CHROが人事に特化しているのに対し、COOの役割は経営戦略に沿って実際の業務を執行する役割と責任を負っています。

CFOとの違い

CFOとは「Chief Financial Officer」の略称で、日本語では「最高財務責任者」です。経営陣の一員として企業の成長や企業価値の向上に責任を負い、資金調達や財務戦略の立案・実行、監査法人などとの渉外も行います。CHROが人事面でのCEOのビジネスパートナーだとすれば、CFOは財務面でのビジネスパートナーと言えるでしょう。

CMOとの違い

CMOとは「Chief Marketing Office」の略称で、日本語では「最高マーケティング責任者」です。CMOは欧米では一般的な役職ですが、日本ではCEOやCFOほど浸透していない役職です。

CMOの仕事は経営戦略を実現するための具体的なマーケティング戦略を立案・実行するチームを取りまとめることです。市場調査などの旧来のマーケティングからデジタルマーケティングまでマーケティング部門を統括し、UX(ユーザーエクスペリエンス:顧客体験)を改善し、市場での自社のプレゼンスを高めることの責任を負っています。CHROが人事部門の執行に責任を負うのに対し、CMOはマーケティング部門の執行に責任を負っています。

CTOとの違い

CTOとは「Chief Technology Officer」または「Chief Technical Officer」の略称で、日本語では「最高技術責任者」です。企業における技術開発や研究開発の最高責任者として、技術戦略を策定したり、開発現場を監督したりする役割を担います。

スタートアップなど若い組織ではプロジェクトマネジメントも行うケースもあり、場合によっては後述するCIOの役割も兼任するケースもあるため、臨機応変に対応できる柔軟性や、チームを牽引できるリーダーシップ、高い技術力など、さまざまな能力が求められる役職です。人事を統括するCHROに対し、技術を統括するのがCTOだと言えます。

CIOとの違い

CIOとは「Chief Information Office」の略称で、日本語では「最高情報責任者」です。CIOの役割は、経営戦略を実現するためのIT戦略を立案・実行することです。経営陣の一員として企業価値を向上させるための経営戦略を理解し、いかに有効なIT投資を行うかを判断し、具体的なIT戦略を策定し、現場を統括するのがCIOです。

現代のビジネス環境において、ITは単なる効率化のツールではなく、企業価値を左右するサービスの源泉ともなり得る重要な技術となっているため、CIOには最新の技術にキャッチアップできる高い技術力が求められます。人事を統括するCHROに対し、ITを統括するのがCTOです。

CHROになるにはどのようなキャリアを進むべきか

CHROは経営戦略に沿った人事戦略を立案・執行する力が求められます。人事部のみでキャリアを積むと、戦略立案能力、経営判断力、多角的な視点や現場のマネジメント能力などが欠けてしまう可能性があるため、会社の業務や組織を横断的に学べるキャリアを進むと良いと言われています。

CHROは会社の各部門の業務を見渡して、必要な場所に必要な人材を割り当てることを仕事とするため、まずは自社の事業やビジネスについて幅広い知見を得ておくと良いでしょう。

一方、必要なスキルで述べた人事労務の専門知識や人事マネジメントのスキルなどは、やはり人事部門での経験も積んでいなければ身に付けにくいものです。若手のうちに各部門のビジネスを学び、その後に人事部で専門性を高め、人事部門の管理職を経てCHROに昇進する形が、社内でCHROへとキャリアアップする道だと言えます。

また、人事の専門分野に長けた人材にまで育っていれば、途中で転職をしたとしても人事部門で重用してもらえる可能性があり、その先にCHROの道が拓けるかもしれません。いずれにせよ、CHROを目指すならば、幅広い知識や経験と人事の専門スキルの両面を磨いておくと良いでしょう。

CHROのキャリアフローをデータから読み解く

本サイト「CAREER DATABASE」のデータによると、CHROの転職前と転職後の職種は以下のようになっています(2022年3月時点)CHROは前職でもCHROを務めていた方が多く、組織・人事コンサルタントや人事に関わった方などもいるようです。やはり直前のキャリアは人事関連のスペシャリストだったことがわかります。また、次のキャリアはCHROやCEOなど、人事や経営の専門家としてのポジションが目立ちます。

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CHROになるために役立つ資格

CHROは経営陣の一人として人事戦略を策定・執行するポジションであり、高い能力が求められますが、取得しなくてはならない資格などはありません。しかし、人事労務の専門知識や経営スキルなどを幅広く学んでおくと役には立つでしょう。

また、CHROを目指す過程で昇進のために資格取得が必要になる企業もありますので、必要に応じて人事労務関連の資格を勉強しておくと将来の助けになるかもしれません。
人事系の資格としては以下のようなものが挙げられますが、必ずしもCHROに直結する資格とまでは言えないため、ここでは軽く紹介するに留めます。

  • 社会保険労務士(国家資格)
  • 中小企業診断士(国家資格)
  • キャリアコンサルタント(国家資格)
  • 衛生管理者(国家資格)
  • 人事総務検定
  • メンタルヘルスマネジメント検定
  • 産業カウンセラー

まとめ

労働力人口の減少と人材の流動化が進んだことで、優秀な人材の確保と人的資源の有効活用の重要性は急激に高まってきました。最高人事責任者たるCHROは、経営上重要な役割を担っています。日本でも徐々にCHROを設置する企業が増えてきました。

人事のプロフェッショナルとして経営に参画し、人事面から経営戦略の実現のためのサポートをするCHROは、求められる能力は高く容易に就ける役職ではありませんが、価値の高い仕事であり、長期的なキャリアプランとしてCHROを目指すことは人事部門のビジネスパーソンにとって良い選択肢だと言えるでしょう。本稿がCHROを志すビジネスパーソンの一助になれば幸いです。

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