ギグエコノミーとは?ニューノーマル時代の新しい働き
目次
ギグエコノミーとは
ギグエコノミー (Gig Economy) とは、個人が(インターネット経由で)企業から単発・短期の仕事を請け負って収入を得る働き方のこと、またはそうした働き方によって成り立つ経済形態のことを指します。また、このギグエコノミーで働く人のことを「ギグワーカー」といいます。
ギグエコノミーの「Gig」は、元々1900年代初期にジャズミュージシャンの間で使われるようになった音楽用語で、一度限りの小規模な演奏会や単発のセッションなどを表していました。ここから転じて「単発・短期の仕事」を指す言葉となったといわれています。
近年その自由な働き方に共感を得てギグエコノミー、ギグワーカーへの注目度が大きく高まっていますが、仕事の安定性や収入の面からも、実践のためにはそのメリットやデメリットをしっかりと検討しておく必要があります。
ギグエコノミーと類似用語との違い
ギグエコノミーとシェアリングエコノミーとの違い
「ギグエコノミー」に類似した概念として「シェアリングエコノミー」が挙げられますが、注目する対象が異なります。
ギグエコノミーでは労働者(ヒト)に注目しており、労働者個人が中心となって多彩な企業や職種から仕事を受注し働いている経済形態を指しています。
一方シェアリングエコノミーでは資産(モノ)が主役で、その資産を利用者同士でシェアして活用する仕組みのことを指しています。
ギグエコノミーとクラウドソーシングとの違い
「ギグエコノミー」と「クラウドソーシング」は本質的に同じものを指しています。
それぞれ視点が異なっており、ギグエコノミーは労働者が自分の時間・スキルを元に企業から案件を得て成り立つ一連の経済形態を俯瞰して表した言葉であるのに対し、クラウドソーシングは企業視点からの言葉で、案件を特定の企業ではなくクラウド(不特定多数の個人)にWebのプラットフォームを通じて投げかけ、個人と契約して解決を図るアウトソーシング手法のことを指しています。
ギグワーカーとフリーランスとの違い
特定の企業等に従属せずに働くという形態は「ギグワーカー」にも「フリーランス」にも共通しており、両社に明確な境界線はありません。
ただし一般的に、単発・短時間で比較的スキルを必用としない仕事を請け負うのがギグワーカー、一連の案件単位で仕事が発生し、比較的専門的なスキルを必用とする仕事を請け負うのがフリーランス、とされる傾向があります。
ギグエコノミーが注目される背景
ギグエコノミーは近年日本でも大きく注目されるようになってきました。特にネット利用の拡大はその大きな要因として挙げられるでしょう。2008年のiPhone発売きっかけとしてスマートフォンは爆発的に広がり1人1台持つのは当たり前となって、インターネットを介して職を探すのが容易な時代となりました。
また多様化する働き方・仕事の価値観と共にパラレルワークやパラレルキャリアといった考え方が徐々に浸透してきたことも背景として挙げられるでしょう。ギグエコノミーを支える多くのデジタルプラットフォームが誕生し、ギグワーカーは今後ますます増えていくことが予想されます。
ただしその急速な成長に対し、日本ではまだ十分な法整備ができているとは言い難い状況です。労働条件や賃金、休暇、労働保険など、ギグエコノミーにおけるギグワーカーの保護は今後の課題と言えるでしょう。
2018年米国カリフォルニア州で定められたAB5(通称ギグ法)や、2021年に内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の4省庁連名で策定された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」のように、ギグエコノミー拡大に向けた議論はまさに今、現在進行形でなされています。
ギグエコノミーのメリット
時間・場所・人に縛られない自由な働き方ができる
単発・短期の仕事を請け負うギグエコノミーの特徴として、自分の好きな時に、好きな場所で、上司や部下・同僚といった周囲の人に縛られずにフレキシブルに働けるというメリットがあります。
特にこのメリットは、新型コロナウイルス感染症によってテレワークが浸透した結果、空き時間が増え、かつ環境が整い気軽に参加できるということでさらに注目されるメリットとなりました。
複業や副業など短時間でも働ける
ギグエコノミーのフレキシブルな特性を活かして、ギグエコノミーの仕事を掛け持ちしたり、本業の空き時間で副業として選択したりする人も増えています。最近では副業を許可する企業も増えたことから、その注目度はますます上がってきています。
スキルや技術で稼ぐことができる
ギグエコノミーでは自分のスキルを活かして収入を得るギグワーカーも多くいます。Web上で働く機会を提供するプラットフォームサービスが発達したことにより、デザインやプログラミング、動画制作など多彩な仕事を請けられる環境が整い、各人が自分スキルにあった仕事を選んで稼ぐことが出来るようになってきました。
ギグエコノミーのデメリット・問題点・課題
組織に守られることができない
ギグエコノミーでは労働者が個人事業主として企業と契約を結んでいたり、そもそもその契約内容が曖昧であったりすることから、会社員のように組織に守られにくいというデメリットがあります。
通常、労災補償や福利厚生などは得られず、確定申告・納税といった会計処理も自分で行う必要があります。また何かトラブルがあった際、例えば取引先が支払いを渋ったり訴えてきたりしても企業が守ってくれることはありません。何もかもを自己責任で対応していくのは、想像以上に大きなデメリットでもあります。
近年その境遇を改善しようとする動きも出てきていますが、基本的には自分でリスクを管理し、トラブルにも対処していく必要があります。
価格競争になりやすく低収入になりやすい
Web上のプラットフォームで仕事を得るということは、多くの場合、価格競争になりがちです。他と明確に差別化できるスキルや実績などがない場合、価格を下げないと仕事を得にくく、場合によっては最低賃金を下回る条件となってしまうことも起こり得るのです。
また、そもそも単発での労働を想定しているため、定期的に安定して仕事を得られる保証はありません。せっかく自分は働ける時間なのに、仕事の供給がないまま結局働けないことも珍しくありません。ギグワーカーはこのようなリスクを想定しておかなくてはなりません。
ギグエコノミーの仕事例
UberEats
日本の都市部でもすっかりおなじみになったオンラインフードデリバリーのUber Eats(ウーバーイーツ)は、ギグエコノミーを代表するサービスの一つです。米国のUber社が2014年に立ち上げ、日本でも2016年にサービスが開始されました。
Uber Eatsでは利用者がウェブブラウザやモバイルアプリを使用して加盟店舗の料理を注文し、「Uber Eats配達パートナー」と呼ばれる配達員がその料理のピックアップ・配達を行います。
Uber Eats配達パートナーは通常、個人事業主としてUber Eats社と契約していて、自分のアプリをオンラインにするだけで好きなときに好きな場所で稼働して収入を得ることができます。
日本では18歳以上であれば学歴不問・採用試験無しなど登録条件が緩いため、ギグワーカーの中でも特に人気の高い仕事です。
Amazon Flex
米国では2015年より、日本では2019年よりAmazon社が本格的な展開を始めたギグエコノミーのプラットフォームです。
登録者は自分が登録した時間に割り当てられたAmazon.co.jpやAmazonフレッシュなどの貨物を、配送センターから客先へ運送します。米国と日本ではサービス内容が異なりますが、日本国内においては軽貨物運送業の届け出が出された黒ナンバーと呼ばれる軽自動車を持つ方のみ登録が可能です。
ライティング
主にWeb上に掲載される記事の執筆を担う仕事もあります。著名な経営者や識者へのインタビューを伴う本格的な記事から、商品のモニターやまとめサイトの記事、またアクセス数アップを目的としたSEOライティングなどのライトな記事まで、Webライティングの仕事は各種クラウドソーシングサイトでも数多く受注・発注されています。
翻訳
高い語学力を活かした翻訳の仕事もあります。書籍の翻訳から、ビジネス資料や技術文書の翻訳、メールや旅行サイトの口コミ、飲食店舗のメニューの翻訳などジャンルも豊富です。
また、募集されている言語も、英語・中国語・フランス語・スペイン語など多様で、翻訳文書の校閲の仕事などもあります。クラウドソーシングで請けられる仕事の多くは比較的ライトな仕事が多く、映画や書籍の翻訳やビジネスの通訳など信頼性が重視される案件にギグワーカーがアサインされることはあまりないかもしれません。
デザイン
デザインを生業とするギグワーカーも多く存在します。チラシやパンフレットなどの印刷物のデザインから、Webサイトのデザイン、バナーデザイン、イラスト作成、キャラクターデザインなど、各種デザインを単発で請け負います。
近年ではクラウドソーシングサイトに登録しているデザイナーも増えており、需要に対して供給が溢れている状況です。デザインにプラスして、何らかの強みを持っておくと良いかもしれません。
プログラミング
プログラミングでもギグエコノミーで受注できる仕事が多くあります。通常、案件ごとに言語や内容、難易度やプロジェクト期間などが指定されており、ギグワーカーは自分のスキルと見合うものを探して受注します。
クラウドソーシングサイトで募集される案件の幅は広く、HTML・PHP・JavaScriptなどのWebサイトの言語から、AIや機械学習に強いPython、果てはExcelの自動化まで募集されています。
動画制作
近年にわかに賑わいを見せているのが動画制作の仕事です。かつては企業動画の撮影・編集が主な案件でしたが、現在はYouTubeの撮影・編集や放送作家・構成作家の需要が大きく伸びています。効果的にYouTubeを使いこなすノウハウを持ったギグワーカーは引く手あまたと言えるでしょう。
買い物代行
北米を中心にこの10年で急成長した分野で、日用品や食料品に特化して買い物代行を行う仕事です。特にコロナ禍を通して世界的に急成長を遂げました。欧米では「instacart」、日本では「ツイディ (twidy)」「ベアーズ」といった企業がプラットフォームを提供しています。
ギグエコノミーで成長している企業
Uber
Uberは日本ではオンラインフードデリバリーサービスのUber Eatsを主体にシェアを伸ばした企業です。ギグエコノミーの代表的企業と言えるでしょう。
Uberはもともとタクシー配車アプリを通してライドシェアサービスを提供する企業でしたが、日本では自家用車による運送サービスは認められていないため、Uberと言えばUber Eatsという印象が浸透しています。
Uberは2021年第4四半期の売上が前年同月比83%増と、今も急成長を続けています。一方で、トラブルや安全上の懸念に対する批判の声も上がっており、多くのギグワーカーにとって今後の動向から目が離せない企業と言えます。
Airbnb
「どこでも居場所がある」をコンセプトにした、バケーションレンタルのトップ企業がAirbnbです。登録者が所有する空き家や空き部屋を個人に貸し出すサービスのプラットフォームを提供しており、シェアリングエコノミーサービスの代表格と言えます。
Airbnbは世界中にユーザーがおり、旅行先の国々の生活が見えるとして人気を博しています。日本でAirbnbを利用して空き部屋などを貸し出すためには住宅宿泊事業法(民泊)の届出が必要な上に、宿泊者との細かな調整を行ったり部屋の掃除を行ったりと必要な仕事も多く、開始するまでのハードルがやや高い仕事です。
部屋が空いているときや貸し出したいときにスポットで宿泊者をマッチングして迎え入れるため、ギグエコノミーの一種と言えるでしょう。
ランサーズ
ギグエコノミーにおける日本最大級のマッチングサイトがLancers(ランサーズ)です。コンサルティングやライティング、プログラミングなど350種以上の仕事の中から自分に合った案件を受注することができます。
ランサーズでは、ランサー登録をしてクライアントから選ばれるのを待つ方法と、多数ある募集案件から選んで応募する方法とが用意されています。コロナ禍を通してフリーランスの人口は1,500万人にまで伸びており、2022年3月期 第2四半期 決算説明資料でも売上は前年同月比12%増と成長を続けています。
クラウドワークス
クラウドワークスは、流通量で国内シェアNo.1を謳うクラウドソーシングのプラットフォームです。個人・法人問わず業務委託の仕事をWeb上で受注することができるマッチングサービスを提供しており、多くのギグワーカーやフリーランスが登録しています。クラウドワークスの売上高は右肩上がりで成長を続けており、コロナ禍以降も順調に成長を続けています。
ココナラ
ココナラは「得意を売り買い」をコンセプトに、個人のスキルに注目したスキルマーケットです。ランサーズやクラウドワークスが法人との高額な取引が多いのに対し、ココナラは個人との取引も目立ちます。
ファッションやメイクのアドバイスや、ペットのしつけの相談など、個人が得意なことをポップに出品するスタイルは特徴的と言えます。まずはギグエコノミーにチャレンジしてみたいという初心者にとって登録やすいプラットフォームかもしれません。
ギグエコノミーの今後
米国を中心としてギグエコノミーの市場は世界的な拡大を続けています。ランサーズ社が公開している「新・フリーランス実態調査 2021-2022年版」でも、フリーランス人口は増加し、経済規模も23.8兆円にまで成長していることがわかります。
特に新型コロナウイルス感染症の蔓延をキッカケとして自由な働き方を選ぶ人が増えており、ギグエコノミーの界隈も賑わってきています。一方、前述のようにギグワーカーの法的な保護は未だ不十分であり、ギグエコノミーには解決すべき課題が山積していることも事実です。
ギグエコノミーの拡大は世界的なトレンドであり、日本もその流れに続くと思われます。法整備が進んでギグワーカーが安心して働ける環境が整えば、ギグワーカーはさらに増え、ギグエコノミーの市場規模もさらに拡大していくことでしょう。
まとめ
メリットデメリットや賛否のあるギグエコノミーですが、個人の事情や環境に合わせて働き方の選択肢が増えることは好ましいことだといえるでしょう。事実、働き方は多様化し、複業や副業も浸透してきました。今後より多くの仕事がギグエコノミーとして広がっていく可能性は高いと言えます。
日本は特に首都圏に人口が集中しすぎているとも言われ、場所や時間にとらわれず働ける環境が整うことは、持続可能な社会を作る上で非常に重要なポイントです。ギグエコノミーが抱える課題はまだまだ多くありますが、課題や問題が解決され、多くの人が安心してギグエコノミーで働けるようになることが期待されます。
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