ハイブリッドワークとは?企業事例とメリット・デメリット
目次
ハイブリッドワークとは
ハイブリッドワークとは、オフィスワークとテレワークなど、複数の働き方を組み合わせた(ハイブリッドした)新しいワークスタイルのことを指します。オフィスやシェアオフィスへの出社や自宅でのテレワークなどを状況に合わせて選択して働けるため、ハイブリッドワークは従業員の柔軟な働き方を後押しします。
例えば「毎週水曜日のみ出社の日」「週2日は出社・週3日はテレワーク」などの決まり事に従ってオフィスワークとテレワークを組み合わせる場合や、それぞれの従業員の裁量でオフィスワークとテレワークを自由に選べる場合もハイブリッドワークに該当します。
ハイブリッドワークは、新型コロナウイルス感染症の流行に伴うテレワークの浸透に合わせて導入企業が増えてきました。オフィスワークのメリットとテレワークのメリットの双方を享受できるとして、ハイブリッドワークは今や働き方の新しいスタンダードとして多くの企業で取り入れられています。
ハイブリッドワークが求められる背景
新型コロナウイルス感染症の対策として社会はニューノーマルへのシフトを求められました。政府や東京都から出された「3つの密を避ける」という号令のもと、大企業を中心にテレワークを推進した結果、都心から満員電車が消えたことはコロナ禍におけるビジネスシーンを象徴する出来事のひとつとして記憶に新しいかと思います。
こうして強く求められた結果、急激に浸透したテレワークでしたが、メリットばかりではありませんでした。表面的には通勤時間がなくなる、家族との時間を取りやすい、場所を選ばず多様な働き方ができるなど魅力的に見えたテレワークは、反面、人によって生産性が落ちる、コミュニケーションが難しい、マネジメントが行き届きにくい、従業員のエンゲージメントが落ちるなどの課題を感じる人も多いことがわかりました。
こうした課題を解決するための落としどころとして、オフィスワークとテレワークを組み合わせるハイブリッドワークに注目が集まりました。オフィスワークとテレワークの双方のメリットを享受し、デメリットを打ち消すハイブリッドワークは、withコロナ時代の働き方のスタンダードとして定着したと言えます。
ハイブリッドワークのメリット
生産性が向上する
フルリモートではメリハリがなくなって生産性が落ちるビジネスパーソンが珍しくないと言われますが、ハイブリッドワークは必要に応じてオフィスワークも織り交ぜるため仕事に適度な緊張感が生まれ、生産性を低下させない効果が期待できます。
また、直接会っての商談が望ましいケースでは対面を選択できたり、一人で集中したいときにはテレワークを選択できたり、仕事内容に応じた場所の選択ができるため効率的な働き方が実現され、生産性を高めることも期待できます。オフィスワークとテレワークの「いいとこ取り」をできるのがハイブリッドワークの最大のメリットだと言えます。
コミュニケーションやマネジメントが円滑になる
テレワークのコミュニケーションはチャットやオンライン会議を中心とするため、対面でのコミュニケーションと比べると情報量で劣りがちです。テレワークの大きな課題のひとつであるコミュニケーション不足を、オフィスワークを組み合わせることで解消できる点も、ハイブリッドワークのメリットです。
また、部下やチームのマネジメントは画面越しよりも対面で行った方が良いと考えるマネジメント層は多く、実際に顔を合わせてコミュニケーションを取ることで仕事の進捗や方向性、抱えている課題や悩みなどを共有しやすくなるだけでなく、信頼感や親近感も醸成しやすくなる(行動経済学のザイオンス効果)と考えられます。
ハイブリッドワークではマネジメントに必要ならば対面でのコミュニケーションも可能となるため、円滑なマネジメントの実現に役立ちます。
従業員のエンゲージメントが向上する
価値観や働き方が多様化する現代において、オフィスに縛り付けることは従業員のエンゲージメントを下げる原因になってしまうことも珍しくありません。従業員ひとりひとりが自分に合った働き方をし、ワークライフバランスを実現することは、従業員のエンゲージメントを高め、生産性を上げ、離職率を抑えることにもつながります。
オフィスのコストカットができる
広いオフィスを維持するためには膨大な賃料がかかります。全従業員が出社する場合、各従業員にデスクを割り当て、多くの会議室を設けるために広いオフィスを借りる必要があります。こうしたコストは、大企業であっても馬鹿にならない負担として企業の経営に重くのしかかっていたのが実情です。
しかし、ハイブリッドワークならば出社している従業員は全体の一部です。フリーアドレス制にして個人のデスクを持たないようにすれば、全従業員を詰め込めるほどの大規模なオフィスは必要なく、大幅なコストカットが見込めます。
大企業では早期からこうしたワークスタイルの推進に力を入れた企業も多く、例えばソフトバンクはコロナ禍が始まったばかりの2020年6月には出社率5割の制限を設けたと発表しており、オフィス機能の縮小を実現しています。
採用の強化ができる
ハイブリッドワークは多様な働き方につながるため、今までリーチできなかった優秀な人材を採用・確保できる可能性があります。
例えば、子育て中で出社できない方や地方在住でリモートならば働ける方などの中にも当然優秀な方はいます。従来のオフィスワーク限定の働き方では採用できなかった潜在層に対してリーチできるという点で、ハイブリッドワークは高い価値を持ちます。とりわけ売り手市場の現在や労働人口の減少が確実な将来において、柔軟な働き方や環境を提示できるメリットは大きいと言えます。
また、オフィスワークならば辞めざるを得なかった人材のリテンションという意味でも、ハイブリッドワークは価値があります。
ハイブリッドワークのデメリット・課題
勤怠管理が煩雑になる
ハイブリッドワークでは、オフィスやシェアオフィス、コワーキングスペース、自宅など、従業員が最適な場所を選んで働くため、どうしても勤怠管理が難しくなります。出勤や退勤の管理だけでなく、各従業員のスケジュールや今どこにいるかの把握など、細かい管理は容易ではありません。
ハイブリッドワークのこうしたデメリットを解消するためには、クラウド型の勤怠管理システムを導入するなどの投資が不可欠です。また場合によっては、出勤時間や退勤時間などの時間で従業員を管理する仕組みや評価制度そのものを変えていく必要もあるでしょう。
セキュリティ強化が必要
オフィスワークとテレワークを組み合わせるハイブリッドワークでは、さまざまな場所からクラウド経由で重要な情報にアクセスします。セキュリティインシデントが起きてしまうと企業へのダメージは計り知れないため、ハイブリッドワークを導入するならセキュリティへの投資は避けて通れません。
「境界型」と呼ばれる従来型のセキュリティシステムは一度ログインに成功したアクセスは無制限に信頼してしまうため、不特定多数の環境からアクセスするハイブリッドワークやテレワークの環境においてはセキュリティリスクが高いと言わざるを得ません。理想的には、ゼロトラストモデルなど高度なセキュリティを実現する必要があるでしょう。
評価制度で不公平が生じることがある
目の前で働く姿が見えることを重視する古い考えの管理職も残念ながら未だ存在します。確かにマネジメントの観点では目の前で働いてくれた方が行き届きやすいのも事実でしょうし、突発的な仕事や商談に対応できる出社組の方が上司として使いやすいのかもしれません。
しかし、ハイブリッドワークを導入するならばオフィスワーク中心の従業員とテレワーク中心の従業員の間に不公平があってはなりません。出社するか否かに関わらず公平な評価を受けられる評価制度の整備は不可欠です。
ハイブリッドワークを成功させるための5つのポイント
ITリテラシーの教育を実施する
ハイブリッドワークが正しく機能しないとき、ボトルネックはシステムではなく「人」にあることが珍しくありません。ITリテラシーの低い従業員にとっては、オンライン会議やチャットツール、新しいクラウドシステムの利用などが大きな負担となっている可能性が高く、こうした従業員が多いとハイブリッドワークは機能しません。
また、管理職がITツールへの拒否感からハイブリッドワークに否定的な場合、部下も安心してハイブリッドワークを選択できなくなってしまいます。ハイブリッドワーク導入に当たっては、希望する従業員に対してITリテラシーの教育プログラムを実施するなどサポート体制が必要です。
ITツールを整備する
ハイブリッドワークでは従業員が仕事用のノートパソコンなどの端末をオフィスの外に持ち出すことは避けられません。こうした端末の管理や勤怠管理のシステムを導入したり、テレワークに必要なオンライン会議やチャットツールを導入したり、どこからでも社内データにアクセスできるクラウド環境を整えたり、高度なセキュリティシステムを導入したりと、ハイブリッドワークにはIT周りの整備は欠かせません。
また、セキュリティインシデントの多くはシステムではなく人によって引き起こされているため、セキュリティに関する教育を全従業員に実施することも必要でしょう。
オフィス環境を整備する
ハイブリッドワークでは出社人数が減るためオフィスの在り方も変えていくと良いでしょう。各従業員の個別デスクを廃止してフリーアドレス制にすることで、生産性や効率を高めるためのスペースを作る企業なども増えています。
オンライン会議用のブースを作る、集中ルームを作る、気分を変えるためのカフェスペースを作るなど、空間を有効活用する方法はたくさんあります。また、大きなオフィスで大幅にスペースが余った場合、ワンフロアの賃貸契約を解約するなどの家賃のコストカットを検討するのも良いでしょう。
ルールと評価方法を明確化する
ハイブリッドワークを成功させるために欠かせないのがルールと制度の設計です。勤務場所や勤務時間などの勤怠に関する制度設計はもちろん、出社頻度のルール作りや、複雑化しがちな交通費清算をどうするのかの検討、評価基準の見直しなど、考えなければならないことは多岐に渡ります。また、従業員が安心してハイブリッドワークを選択できるように、これらの制度についてオープンにすることも重要です。
雑談を大切にする
「雑談」と言うとまるでサボっているように聞こえるかもしれませんが、実は雑談はハイブリッドワークで組織を維持する上で重要な要素です。ハイブリッドワークを10年以上組んできたサイボウズは「ハイブリッドワークの雑談不足が組織を徐々に蝕んでいく」と語っています。
コミュニケーション不足はテレワークの大きな課題でしたが、一部オフィスワークを組み合わせるハイブリッドワークでもコミュニケーションが不足するケースは珍しくありません。次章で述べる成功例の企業は、ハイブリッドワーク環境下ではオフィスをコラボレーションやチームビルディングの場として再定義しています。気軽なコミュニケーションは生産性を高めたり、チームの一体感を生み出したり、イノベーションの源泉になったりするものです。
ハイブリッドワーク導入企業事例 4選
Googleはコロナ禍の2021年5月には14万人の社員をハイブリッドワークに移行させた事例として注目を集めています。セキュリティ対策にGoogleのゼロトラストセキュリティサービス「BeyondCorp」を活用したり、コミュニケーションの促進のためにGoogle Meetでカジュアルなオンライン会議を設けたり、オフィスを「コラボレーションに集中する場」に再定義したりと、Googleらしい取り組みを進めました。
また、どうしても希薄になりがちな管理職と従業員の関係性を強化するために、管理職には監視ではなくコーチとしての役割を重視するよう求め、生産性の低下を防ぐよう工夫したと言います。
こうした取り組みの結果、Googleの意識調査では75%の回答者が、ハイブリッドワークが3年以内に組織内の標準規範になると回答しているほか、大半の回答者が自身の身体・精神・金銭・社会的な側面にプラスの効果をもたらしたと答えています。
参考リンク:ハイブリッドな働き方に関するグローバル調査結果の考察
ソフトバンク
ソフトバンクは2020年2月という早い時期から在宅勤務の回数制限を撤廃し、その後は全社的なフルリモートを経て、2020年6月には1日当たりの出社人数を5割以下に維持するハイブリッドワークの方針を打ち立てました。
個人と組織の生産性を最大化することを目指し、テレワークやサテライトオフィスの利用を回数制限なく自由に選択できるようにし、会議はオンラインを強く推奨した上で、オフィスはチームビルディングやコラボレーション、イノベーション創出の場としたと言います。
こうした取り組みの結果、部長層以上・課長層・それ以外の従業員の約8割が個人の生産性が向上した、または維持されたと回答しています。また、組織の生産性に関しても、部長層以上・課長層の約7割が向上した、または維持されたと回答しています。
参考リンク:新型コロナウイルス感染症の対策と生産性の最大化を両立する新たなワークスタイルを導入
ベネッセ
ベネッセはコロナ禍以前からハイブリッドワークを推し進めてきた企業として注目を集めていましたが、2020年にはコロナ禍を受けて出社率5割を目指す方針を打ち立てました。社員へのヒアリングを通して働き方のガイドラインを見直し、早い段階で独自の勤怠管理システムの構築に乗り出し、効率化や生産性向上、コミュニケーション改善までを含むツールを構築しています。
また、Googleやソフトバンク同様に、オフィスはチームビルディングやコラボレーションの場として見直し、東京本部オフィスは2021年5月に全面リニューアルしたと発表しています。現在では従業員ひとりひとりが持つ可能性を最大限発揮できるワークライフバランスとマネジメントが浸透していると言います。
参考リンク:ベネッセコーポレーション、出社・在宅の「ハイブリッド勤務」環境を推進
サイボウズ
サイボウズは2010年からテレワークやハイブリッドワークに取り組んでおり、先進的な働き方を実践する企業として注目を集めてきました。
自社の経験から、オフィスワークとテレワークの情報格差をなくしたり、状況の共有を重視したり、意思決定のプロセスを共有したり、雑談を生み出す仕組みを作ったりと、多くのノウハウを発信しています。また、こうした経験やノウハウを盛り込んだ製品や企業研修プログラムを提供していることも特徴です。
参考リンク:THE HYBRID WORK|サイボウズが運営するハイブリッドワークを考えるメディア
まとめ
コロナ禍を経てテレワークが浸透し、一時はハイブリッドワークが一般的になったものの、状況が落ち着いてきたらオフィスワークへの回帰も目立ちました。
多くのビジネスパーソンがハイブリッドワークの良さも難しさも経験する中、やはりオフィスでなければならないと考える方が多いことも事実です。しかし、私たちは日常やビジネスを取り巻く環境が短期間でがらりと変わることを知っているはずです。生物や遺伝子は多様性を内包することで長い歴史の中で生き残ってきました。
ビジネス環境の大きな変化の中で生き残るためには、企業も多様な働き方や多様な価値観を受け入れ、柔軟な組織作りを目指していく必要があります。すべてのビジネスパーソンが力を発揮できる制度が整い、ひいては日本全体の競争力が再び高まっていくことを期待したいものです。
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