リテンションマネジメントの6つの施策と成功事例7選

リテンションマネジメントとは

リテンションマネジメントとは「保持」や「維持」を意味する”retention”と管理を意味する”management”を合わせた言葉で、自社の人材の離職率を下げるための環境づくりや仕組みづくり、マネジメント手法のことをいいます。

リテンションマネジメントは会社と従業員双方にメリットをもたらす考え方です。離職を防ぎ人材を定着させるということは、従業員の勤続意欲を高めることにより実現されます。給与や待遇、評価、働きがい、将来性、人間関係など、働くことのメリットを感じてもらうことで勤続意欲を高め、離職を防ぐのがリテンションマネジメントです。「辞めさせない」のではなく、「長く働きたいと感じてもらう」ことに本質があります。

終身雇用制が次々と見直され人材の流動性が高まる昨今、企業にとって財産である社員の離職を防ぎいかに長く働き続けられる環境を用意できるかは、企業の存続と成長に欠かせない課題の一つとなりました。

リテンションマネジメントが必要な理由

エン・ジャパンが2016年に実施したアンケート「人材のリテンションについて」に示されているように、離職率の高まりを受けて対策の必要性を感じている企業が多く、回答者の67%はリテンションマネジメントに取り組むと答えています。その後、転職市場はより売り手市場の色が強まり、転職者数も増加傾向にあることから、アンケート実施当時よりもさらにリテンションマネジメントの需要は増していると言えます。

リテンションマネジメントが必要とされる理由として、主に「人材の流動性の高まり」と「労働人口の減少」が挙げられます。

日本の転職者数は2011年頃から増加傾向にあり、新型コロナウイルス感染症の拡大前、2019年には過去最高の351万人となりました。被雇用者はより良い条件・より良い企業に移動しやすくなっていると考えられます。

また労働人口の減少はすなわち市場全体の慢性的な人材不足を示しています。近年の日本では特にこの問題が深刻になっており、各企業は離職率を下げていかに人材を定着させるかが課題となってきました。

他にも、離職率が高い企業はどうしても採用コストや育成コストがかさみ、労働生産性も上がりにくい状態に陥りがちです。現代の日本では将来の企業の存続と成長のために、リテンションマネジメントが必須となってきているのです。

リテンションマネジメントの6つの施策

企業が行っているリテンションマネジメントの施策は様々ですが、エン・ジャパンのアンケートによると以下6つの施策が上位を占め、効果的だったと語られています。

コミュニケーションの促進

人間関係で転職を考える人は決して少なくありません。厚生労働省による「令和2年 雇用動向調査」の「4. 転職入職者の状況」では職場の人間関係を理由とした転職者は男女ともに多く、とりわけ伸び盛りの25~29歳では男性の15.2%が、女性の14.6%が人間関係を理由としており、最大の理由として群を抜いて多くの割合を占めていることが窺えます。

こうした背景を踏まえれば、社内コミュニケーションの活性化が対策として最も重視され、また最も効果を上げると捉えられていることに不自然はありません。特に新型コロナウイルス感染症の拡大により在宅勤務が多くなった昨今、従業員同士のコミュニケーションの維持・促進は多くの企業にとって大きな課題となっています。

手法は様々ですが、ハード面ではメールや電話に加え、SlackやMicrosoft Teams等のビジネスチャットツール、Zoom等のオンライン会議システムを導入して従業員同士のコミュニケーション手段を増やすことが一般的となってきました。また、「ハイブリッドワーク」に関するコラムでも触れた通り、雑談不足は組織を蝕む病巣となりがちです。オフィスワーク、テレワークを問わず、気軽な雑談ができる仕組みを整えることも役に立つでしょう。

一方ソフト面では、かつては職場での飲み会や社内交流を促す社内イベントの実施が多く行われてきました。しかし2021年の日本生命保険のアンケートが示す通り、いわゆる単純な飲みニケーションから距離を置きたいと考える従業員が急増しており、また企業としても新型コロナウイルスの影響で大きなイベントは実施しづらくなってきました。

今後コミュニケーションの活性化についてどのような施策を行っていくか、企業は真剣に向き合わなければなりません。

待遇改善

転職サイトのdodaが2022年3月に公開した調査「転職理由ランキング2021」では、20代・30代・40代の全ての年代における転職理由の第1位が「給与が低い・昇給が見込めない」だと示されています。したがって、待遇を改善することも従業員の満足度を上げる直接的な方法であり、リテンションマネジメントの代表的な施策と言えます。

単に賃金を上げるだけではなく、職場環境を良くする、休みを取りやすくする、産休や育児休暇からの復帰をサポートするなどもリテンションマネジメントとして有効です。また、自社株の購入権を有利な条件で付与することもワークエンゲージメントを高めることに役立ちます。株式公開を目指すスタートアップであればストックオプションの付与も有効でしょう。

教育・育成

前述の「転職理由ランキング2021」では、20代の30.1%が「スキルアップしたい」を、22.3%が「社員を育てる環境がない」を転職理由として回答しています。30代でも同程度の割合でこれらの理由がランクインしており、教育や育成へのサポート不足が転職理由の上位となっていることが示されています。

したがって、教育・育成制度を充実させることが従業員満足度を向上させ自社に定着させる一助となります。現場のOJTに頼らず一貫した社内研修を定期的に実施する、また外部教育機関での学習への補助制度、「リカレント教育」や「リスキリング」といった手段が取り入れられることも増えてきました。

マネジメント

適切なマネジメントは従業員の勤続意欲を維持させるために必要な要素です。ここで言うマネジメントとは、上司として報連相を徹底させて監視するような「管理」ではなく、従業員が気持ちよく働き成果を出せるよう「サポート」することを意味します。従業員と十分なコミュニケーションを取り、価値観や希望を知り、メンターとして働きかけることで、従業員のエンゲージメントを高めることができます。

また適切なタイミングで本人の希望に沿った人事異動を行うこともリテンションマネジメントの一つの手段と言えるでしょう。

キャリアパスの明確化

会社内での明確なキャリアパスが見えない場合、将来に対する不安感が生まれ離職率が高まります。従業員の勤続意欲を高めるためには、定期的な面談を行うなど本人の希望と会社の意図を合致させ、各人のキャリアパスを明確化することが効果的であり、リテンションマネジメントの手法として有効です。

適正な評価

人は自分の行った仕事に対して会社から正当な評価を得られていないと感じた時、より自分を評価してくれる企業への転職を考えてしまいます。仕事の成果に見合った評価を与えることはリテンションマネジメントでは避けて通れません。

とは言え、適切な評価制度を作り上げることは容易なことではありません。自社に合った評価制度の設計に努めつつ、上司だけでなく同僚からの評価も加味される「360度評価」や、同僚からの感謝がポイントとなる「社内通貨」などの制度を検討してみるのも良いでしょう。

また、昇進や昇給だけが評価ではありません。成果に応じて適切な裁量を与え、自身の判断で仕事を進められるようにすることでも、人は認められていると感じられます。

リテンションマネジメントに成功した企業事例 7選

企業事例1:サイボウズ株式会社

クラウドベースのグループウェアサービスを提供するサイボウズは、離職率を28%から3.8%に激減させた、リテンションマネジメントの成功事例として有名です。

サイボウズは2007年という早い段階で働き方改革として「選択型人事制度」という制度を導入しました。今でこそ多くの企業が取り入れている「働く時間や場所を従業員が自由に選べる」という働き方や副業自由化を当時から実践した結果、大幅な離職率の抑制に成功したと言います。従業員の自立と多様性を重視して働きやすい環境を作ったリテンションマネジメントの成功事例と呼べるでしょう。

企業事例2:株式会社鳥貴族

残業や休日出勤の多いイメージのある飲食業界ですが、鳥貴族では無断残業や休日出勤を禁止し、長時間労働を是正して従業員が働きやすい環境を作っています。「コスト削減のために社員を犠牲にしない」という方針を掲げ、30年かけて少しずつ労働環境を改善してきたと言います。

また新入社員に対しても入社後1か月を目途に面接官が店舗に訪問し、フォローすることで、早期退職者の抑制に成功しています。他にも社長や役員も皆一つの部屋で仕事をする、退職者にもきちんとヒアリングをして今後に活かすなど、全社一丸となって労働環境の改善に力を入れている企業です。

企業事例3:株式会社レオパレス21

同じく離職率が高いイメージの不動産業界、業界基準はやはり15%と高い水準ですが、レオパレス21でもリテンションマネジメントに取り組み、2013年からの3年間で離職率を9%弱まで改善しました。

ポイントは「現場任せからの脱出」にあったと言います。従来、新入社員の教育は現場の支店長任せで育成スピードも離職率も大きくばらつきがあったところを、さまざまな研修制度を用意したことで状況が改善されました。

また長時間労働が常態化しがちな不動産業界において、「労働時間イコール評価ではない」というメッセージを繰り返し発信・実践することで組織全体の意識を改革し、労働時間の大幅な削減に成功して従業員の働きやすさを向上させたと言います。

企業事例4:Google

働きたい会社として常に名が挙がるGoogleは、無料の社員食堂や労働時間の20%を自分の好きなことに使っていい「20%ルール」など、魅力あふれる職場環境づくりに力を入れている企業の代表格と言えるでしょう。しかしGoogleでも実は非白人層の離職率は高く、彼らへのリテンションマネジメントが課題となっているという記事もあります。

こうした課題に対してGoogleではリテンションマネジメント専門の管理職を設けキャリアサポートを策定、安心できる社内コミュニティづくりやメンター制度の強化などを行ってきました。

またGoogleの精神を表す「Googliness」として多様性の受容を掲げ、マイノリティへの差別をなくし、離職率の低下を模索しています。

企業事例5:Amazon

Amazonでは少し変わった「Pay to Quit」という制度を用意し、優れたリテンションマネジメントを実現しています。「Pay to Quit」では配送センター従業員を対象に、毎年1回、一人当たり最高5,000ドルで「辞職」のオファーをもちかけると言います。

その仕事をしたいと思っていない従業員が働き続けることはAmazonにとっても本人にとっても不幸なことです。合わない従業員はその場で去り、オファーを断り残ることを選択した従業員はコミットメントを元に生産性を上げ、長期的に見て企業の効率を上げる仕組みとなっています。

Amazonでは「Pay to Quit」の他に、配送センターの従業員が(Amazonの仕事に関すること以外であっても)何かを学びたい場合、学費を最大95%まで負担する制度を設けるなど、従業員を大切にするための仕組みづくりに力を入れています。

企業事例6:Meta(Facebook)

Metaでは従業員の長所を発揮できるような働きかけを心掛けており、キャリア成長の機会を積極的に従業員に与えています。これはキャリアアップのみならず、あえての降格や職種替えにより従業員にやる気を起こさせるという手法も含まれていると、同社人事部門の統括、ロリ・ゴーラーも語っています。

一方、近年肥大化した組織の中で従業員の士気の低下が叫ばれており、さらなるリテンションマネジメントもMeta社の一つの課題となっています。最近では働き方の選択肢を増やす一助としてリモートワークのディレクター職「Director of remote work」と「Head of remote learning」を設け、自宅でリモートワークを行う社員のソフト面でのサポートやマネジメントから、インターネット環境からカメラ・照明に至るまでのハード面でのサポート、オンライン学習のサポートまで行っています。

企業事例7:Apple

Apple社については、その秘密主義から具体的にどういった施策がとられているかが表に出ることがあまりありませんが、従業員の定着率は高く、また米国では「最も働きがいのある会社100社」として10年以上も選出され続けるなど、リテンションマネジメントに成功している企業と言えるでしょう。

またAppleに関してはもとよりその強力なブランド力が人を集め、従業員のエンゲージメントも非常に高い企業と知られています。「企業のブランド力を高める」こともまた、従業員がその企業に対して魅力に感じ、勤続意欲を感じる要因の一つとなると言えます。

まとめ

労働者の流動性が高くまた日本企業全体が慢性的人材不足に陥る現代の日本では、自社人材を定着させ企業の成長を止めない人事戦略が重要課題となっています。いかに自社の魅力を高め従業員のエンゲージメントを高めるかがリテンションマネジメントのポイントであり、手法は様々あれども共通して根底には「企業の発展」と「従業員の満足度向上」というWin-Winな関係が存在します。

近年では働き方の変化や価値観の多様化によって、従来型のリテンションマネジメントだけでは不十分な部分が多く出てきています。従業員の働き方や価値観と真に向き合い、制度や環境を積極的に改善し続ける意識が、これからの企業には不可欠なのでしょう。

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