ジョブローテーションとは?無駄に終わらないために知っておくべきこと
目次
ジョブローテーションとは
定義
ジョブローテーションとは、企業が戦略的・長期的な人事の視点から部署異動や職務変更を行うことで、社員の育成を図るための制度です。
ジョブローテーションは社員に長く働いてもらうことを前提にした制度であり、単縦な配置転換とは考え方が異なります。長期的に貢献してもらうことを前提に、自社に必要な能力や経験を持った社員を育成する点がポイントです。そのためメンバーシップ型雇用を行っている企業で多く採用されてきました。
メンバーシップ型雇用では、従業員は総合職として入社した後、さまざまな経験を通して広い視野と能力を身に付け、徐々に昇進していきます。ジョブ型雇用のように1つの専門的なスキルを求めるのではなく、幅広い知識や経験、人脈などを身に付けることを目的としています。
ひとつの企業で長く働く終身雇用が中心の時代には、さまざまな部署や勤務地で働き、多様な経験を得られるジョブローテーションは非常に有効な施策でした。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「企業の転勤の実態に関する調査」によれば、ジョブローテーションを行なっていると回答した企業は53.1%に上ります。また正社員数が多い企業ほど実施している割合は高くなり、1,000人以上の企業では70.3%が実施していると回答しています。
期間
ジョブローテーションを行う期間は企業により異なりますが、一般的には約3~5年ごとに行われるケースが多いとされています。
前述の独立行政法人労働政策研究・研修機構の「企業の転勤の実態に関する調査」においても、新卒者が初めて転勤をするのは3~5年後と回答している企業が多く、3年目で34.0%、4~5年目で36.1%、3~5年目の合計で70.1%となっています。
ジョブローテーションの目的
ジョブローテーションを行う主な目的は人材育成です。ジョブローテーションは新入社員だけでなく、ミドル層や管理職でも行われますが、それぞれ目的や狙いが異なります。
新入社員のジョブローテーションは、仕事の適正を見極めるために行います。総合職で入社した新入社員は、どの仕事に適正があるかわからないことが多いでしょう。そのためジョブローテーションを通して多様な仕事を経験させることで、仕事の適正を見極めることが可能です。適正を見極められれば、長期的な視点での従業員の生産性を高めることにもつながります。
ミドル層のジョブローテーションは、将来のリーダーや管理職に経験を積ませるために行います。同様に管理職のジョブローテーションは、幹部候補の育成のために行います。多様な仕事を経験することは、多角的な視点から物事を考え判断できるようになるため、こうした人材が将来幹部になった際、社内の課題や役割を俯瞰的に見ることができ、適切な対応が取れるなどの期待が持てます。
また多様な部署や勤務地でさまざまな仕事を行うことで、幅広い知見を身につけられるとともに社内での人脈構築も可能です。こうしたさまざまな視点からの人材育成を目的として、ジョブローテーションは取り入れられています。
ジョブローテーションのメリット
適材適所の配置のための適性がわかる
ジョブローテーションの最大の特長は「多様な仕事や人間と関われること」です。この特長は適性を判断するためには大きく役立ちます。ジョブ型雇用のように既に専門性を持った人材を雇用するのではなく、フレッシュな人材を総合職として雇用する場合、それぞれの従業員の適性を判断するには実際に仕事をしてもらうのが確実です。
多様な仕事を従業員に経験させることで、強みや弱みなどの適性が見つかり、適材適所の配置を行えるようになることは、ジョブローテーションの大きなメリットと言えます。人材を適材適所に配置ができれば生産性の向上が期待でき、従業員のエンゲージメントも高まります。
広い視点と経験が得られる
多様な仕事を経験することで、多角的な視点を得られるのもジョブローテーションのメリットです。さまざまな部署や仕事を取り巻くビジネス環境を肌で感じ、それぞれの部門が何を重視しどのように動いているかを知れば、幅広い視野に基づく総合的な戦略を打ち立てる能力が磨かれます。
また、多くの従業員と関わって仕事を進めていくことで、他者を尊重して多様性を受け入れられる人材に育ちます。こうした経験はマネジメントに活かされることが期待され、管理職などの育成にも役立ちます。
幅広い社内人脈が得られる
多数の従業員を抱える大手企業ほど多様な事業を展開しており、それに関わる多くの部署・部門が置かれています。ジョブローテーションを行うことで、さまざまな事業や部署の人間と関わることができ、幅広い社内人脈が得られる点はメリットと言えます。
複雑で高度な仕事を進めるためには、多くの場合、大勢の人間との間で調整を行わなければなりません。ジョブローテーションで得た社内人脈は、こうしたケースで大いに発揮されます。また、多様な部署の人材との交流は縦割りの組織では生まれにくい発想をもたらし、イノベーションの源泉になることもあります。シームレスな社内人材の交流は企業にとって生産性の向上に影響するため、大きなメリットと言えるでしょう。
部署を越えた組織の活性化が起こる
部署内の人材が固定化されてしまうと、人材の視野が狭くなってしまう恐れがあります。同じ部署、同じ仕事、同じ仲間を通した視点でしか物事を見られない場合、企業全体の利益よりも部署の利益を優先してしまうセクショナリズムを起こすこともあり、企業の生産性向上に相反します。こうした組織の硬直化の弊害を防ぐために、ジョブローテーションを通した人材の交流は役立ちます。
ジョブローテーションのデメリット
専門家やスペシャリストが育ちにくい
ジョブローテーションは多角的な視点を持ったジェネラリストの育成に向いています。ジェネラリストとは「広い範囲の経験や知識を持った人」という意味で、客観的な評価や何かが起こった際に臨機応変な対応ができる人材です。
一方、高い専門性を持ったスペシャリストが必要な業務や、スペシャリストでなければ解決できない課題なども多くあります。とりわけAIやIoTなどを専門とする高度IT人材の需要が急激に高まっている近年では、スペシャリストの確保は企業の課題のひとつとなっています。
ジョブローテーションは部署や仕事を転々とする性質上、どうしても専門家やスペシャリストが育ちにくく、この点こそがジョブローテーションの最大のデメリットだと言えます。ジェネラリストを育てるジョブローテーションと、スペシャリストを確保するジョブ型雇用など、制度を使い分けることが必要な場合も多いかもしれません。
モチベーション低下につながることもある
さまざまな仕事を経験させるジョブローテーションは、従業員によっては希望する仕事以外に就いてしまう可能性もあります。ひとつの仕事や専門分野を突き詰めたい「技術・職能」のキャリアアンカーを持つ人材などは、ジョブローテーションによって大きくモチベーションを下げてしまうことが予想されます。
また異動直後はこれまでの仕事での経験がリセットされてしまい、仕事を覚え直すことになってしまいます。とくに適性のない仕事の場合、モチベーションの低下につながってしまい、退職に至ってしまう可能性もあるでしょう。
こうしたモチベーションの低下を避けるためにも、企業側はジョブローテーションを行なっている社員と定期的な面談を行うなどの対策が求められます。
人材育成に時間とコストがかかる
ジョブローテーションはメンバーシップ型雇用を前提で行っているため、人材育成に時間とコストがかかります。人材育成に時間がかかるということは、人材の流動性が高い現代において、育てた先から転職されてしまうリスクにつながります。時間やコストをかけた人材を失うことは企業にとって大きな損失であり、ジョブローテーションのデメリットと言えるでしょう。
ジョブローテーションが無駄と言われてしまう理由
最近ではジョブローテーションが無駄だという論調も増えてきました。前章で挙げたデメリットはもちろんのこと、人材の流動化が進んでいるため終身雇用が前提の時代ではなくなったことが直接的な原因でしょう。
また、近年のビジネス環境の変化の速度はとても早く、スペシャリストが企業の価値を左右する時代になってきたことも影響しています。AIやIoTに代表される高度IT人材などの高い専門性を持った人材を確保しなければ提供できない製品やサービスも多くあります。
こうしたスペシャリストは転職市場から高く評価されており、企業側もスペシャリストを求める傾向が強まってきました。配置転換を頻繁に行うジョブローテーションはスペシャリストの育成に向いていないため、現代のビジネス環境に対応しきれない部分が出てきてしまったと言えます。
これまでの日本では多くの企業が横並びの新卒一括採用とジョブローテーションを前提に人事戦略を敷いてきました。しかし現代においては高度な人材が必要な部署や職種も多く、ジョブローテーションが無駄な期間となってしまうことも少なくありません。実際に日本でもジョブ型雇用などを導入し、仕事基準で人材を確保することが増えてきています。
そのため企業としては、広い視野を持つジェネラリストが必要な職種ではジョブローテーションを行う、スペシャリストが必要な職種などではジョブ型雇用を行うなど、制度の使い分けが必要とされてきています。時代の変化に合わせてジョブローテーションの制度を見直すことで、企業にとって制度がプラスになっているかの再検討をする時期なのかもしれません。
ジョブローテーションを上手に取り入れる方法
ジョブローテーションが向いている企業
企業の規模や事業内容、揃っている人材、風土などによって、ジョブローテーションの向き不向きが分かれます。下記に向き不向きの一例を示します。
ジョブローテーションが向いている企業
- 社内に多様な部署や業務が存在している企業
- 各部署の業務の関連性が高い企業
- 幅広い視野や知識、経験が必要な企業
- 中長期的な人材育成体制が整っている企業
- 企業文化や組織風土を浸透させていきたい企業
ジョブローテーションが向いていない企業
- 業務の専門性が高すぎる企業
- 異動などによって勤務体系の差が大きくなってしまう企業
- 異動できる職種が少ない企業
- 中長期的な人材育成体制が整っていない企業
ジョブローテーションに向いている企業の場合、ジョブローテーション制度を取り入れることで価値ある人材育成を行え、競争力の確保や生産性向上につながる可能性があります。しかし、そのような企業であっても前章で挙げたようなデメリットは運用していく中で発生してくるでしょう。またジョブローテーションはスペシャリストが必要な職種で運用するには向かないため、職種によっては制度を使い分けることも検討する必要があるでしょう。いかにデメリットを抑えた運用をしていくのか対策をセットで考え、運用していくことが求められます。
ジョブローテーションの導入にあたり注意すべき点
ともすれば、長年ジョブローテーションを行ってきたことで、制度の実施が手段から目的にすり替わってしまうケースも散見されます。目的なく漫然と行われるジョブローテーションは、時間とコストの浪費につながってしまうため、どんな人材を育てるために実施するのか、何を経験させて何を身に付けて欲しいのか、などを明確にして運用をする必要があります。
また、近年ではジョブローテーションに対して否定的な意見を持つ人材も増えて来ているため、ジョブローテーションを行う従業員に対して意義や重要性を理解してもらうことにも配慮が必要です。業務命令として一方的に異動をさせると離職してしまう可能性もあります。さらに、異動後の新しい業務をスムーズに行うためにも、部署や仕事ごとにマニュアルを作成しておくなど、従業員が戸惑わないための準備が必要になります。
なお、ジョブローテーションの異動の中には転勤を伴うものもあるでしょう。そうした場合には引越し費用を会社が負担するなど、あらかじめ制度として整えておく必要があります。従業員の中には家庭の事情などで転勤が難しい場合もあるため、そうした従業員には個別で相談に応じる体制を整えるなど、制度面での準備は不可欠となります。
まとめ
ジョブローテーションは、終身雇用を前提として企業と従業員が二人三脚で成長してきた、かつての日本企業には有効な施策でした。しかし時代とともに適した人事制度が変わってくるのもまた事実です。
人材の流動化が進み、転職が当たり前となり、終身雇用が前提の時代ではなくなったと共に、急激なITの進化がビジネスの速度を押し上げました。今、管理職や経営幹部として企業を牽引している世代が入社した当時と現代では、ビジネスのあり方もがらりと変わっています。
こうした時代の変化に対応するためには、これまでの人事制度の見直しは必須と言えるでしょう。企業はジョブローテーションに適した職種を見極めるとともに、スペシャリストの育成や確保にも力を入れなければなりません。ジョブローテーションの良い面を活かしつつ、人事制度を使い分けていくことで企業の成長につなげていくことが現代では求められています。
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