キャリアアンカーとは?8つの分類と自己診断の方法、おすすめの本
キャリアアンカーとは
キャリアアンカーとは、個人がキャリアを選択する際の軸となる基本方針のことです。アメリカの心理学者であるエドガー・H・シャイン氏により提唱された概念であり、多数の質問を通してキャリアの軸を8つのカテゴリーに分類して提示する点が特徴です。
アンカー (anchor) は錨を示す英単語であり、船は錨を下ろすことで潮の流れに左右されずに安定して止まることができることから、生涯に渡りぶれないキャリアの軸としてキャリアアンカーと呼ばれます。
キャリアアンカーでは、自身のキャリアを考える上で重要な3つの要素として、「価値観」「欲求」「能力(コンピタンス)」を掲げており、自己分析を行う質問に回答していくことでこれら3要素を分析し、自身が以下の8分類のどこに属するのかを提示します。
- 技術・技能
- 管理能力
- 自立・独立
- 保障・安定
- 企業家的独創性
- 奉仕・社会貢献
- 純粋な挑戦
- ライフスタイル
自身のキャリアンカーを分析していくことでキャリアの軸が見つかり、どのように働きたいかが見えてくるのです。
キャリアアンカーを知るメリット・注目される理由
満足できるキャリアや働き方を知ることができる
キャリアアンカーによって自身のキャリアの軸が整理されることで、転職活動など今後のキャリア選択における重要な判断基準を得ることができます。キャリアアンカーは人生のステージを経ても変化しないと言われており、昇進や異動、転職、結婚、引越し、出産など人生の大きなイベントを経てもぶれないキャリアの軸ができていれば、満足できるキャリアや働き方を選択しやすくなることでしょう。
ミスマッチを防ぐことができる
個人が自身のキャリアアンカーを把握することは、従業員にとっても企業にとっても不幸なミスマッチを防ぐことにつながります。価値観や能力の噛み合わない企業に採用されてしまっては、高いモチベーションを維持して満足した仕事を行うことは容易ではありませんし、長期間勤めることも難しいでしょう。
企業から見ても、従業員の離職率を下げることは人事の重要課題のひとつです。厚生労働省が発表した「平成30年雇用動向調査結果の概況」によれば、転職理由として「満足のいく仕事内容でなかったから」と回答した人は26.7%にも上っています。転職が当たり前になった現代において、長く働いてもらうためにミスマッチのない採用や人事を行うことは企業の競争力を左右する重要課題と言えます。
従業員が自身のキャリアアンカーを把握し、企業もそれをマネジメントに活かせたならばミスマッチを防ぎやすくなるはずですし、採用段階でミスマッチが起こる可能性を抑えやすくもなるはずです。また、キャリアアンカーに沿った人事が実現できれば、従業員の能力が十全に発揮されて生産性向上につながることも期待できます。
このように、従業員にとっても企業にとっても、キャリアアンカーの把握はメリットが多いと言えます。
キャリアアンカーの8つの分類
技術・職能 (TF: Technical / Functional Competence)
- タイプ
- 専門家・職人タイプ
- 価値観
- 専門分野に対して高い意欲を持ち、専門外の仕事は望まない
- 向いている仕事
- 技術職、研究職、職人など
技術・職能をキャリアアンカーとしている人は、その道のスペシャリスト・エキスパートになることを望んでいます。そのため管理職に昇進するよりも、一つの分野で課題を見つけて挑戦し続けることで、スキルを磨き上げることを重視します。極めた専門分野においてはとても高い能力や生産性を示しますが、人事異動などで他の部門や業務に異動させると即座にやりがいを失います。
管理能力 (GM: General Managerial Competence)
- タイプ
- 経営者・管理職タイプ
- 価値観
- 責任のある役割を担うことに幸せを感じ、出世意欲が高い
- 向いている仕事
- ゼネラルマネジャー・経営者など
管理能力をキャリアアンカーとしている人は、特定の分野にこだわらず企業全体の経営に関わることを望んでいます。課題解決、マネジメントにやりがいを感じる傾向があり、組織内で地位を上げていくことで成長したいと考えています。組織として成果を上げることを重視し、それを自ら実現するために高い地位を望みます。そのため若いときは積極的に異動を受け入れ、資格取得や免許取得にも積極的な傾向にあります。
自律・独立 (AU: Autonomy / Independence)
- タイプ
- 独立タイプ
- 価値観
- どんな仕事も自分のペース、やり方が大事
- 向いている仕事
- 研究職、技術職など
自律・独立をキャリアアンカーとしている人は、仕事を自分のペースややり方で進めることを望んでいます。そのため組織内の細かい規律を守ることや集団行動は苦手な傾向があるのも特徴です。自分のペースで仕事を行いたいため、フレックスタイム制やテレワークなど自由度の高い働き方を容認してくれる職場で力を発揮します。また自身の仕事は納得しながら進めるタイプでもあるため、相談できる上司などがいるとより安定していきます。ただし、独立志向も強いため、ふとしたきっかけで退職・独立してしまうこともあります。
保障・安定 (SE: Security / Stability)
- タイプ
- 安定志向タイプ
- 価値観
- ローリスク・安定した生活の保障が優先
- 向いている仕事
- 危機管理・公務員・大企業など
保証・安定をキャリアアンカーとしている人は、長期的に安定した終身雇用が期待できる職場を望んでいます。基本的にリスクを取ることは望んでおらず、社会的・経済的に安定を得ることでリスク回避をしようと考える傾向にあります。終身雇用などの安定を望むため、堅実な職場であれば転職を考えず、長く働くことを求めているのが特徴です。一方、変化を嫌うため、異動や転勤などにストレスを感じることが多い傾向にあります。
起業家的創造性 (EC: Entrepreneurial Creativity)
- タイプ
- 発明家・芸術家・起業家タイプ
- 価値観
- リスクを恐れずに新しいモノやコトを創り出すことを重視
- 向いている仕事
- 起業家・アーティストなど
起業家的創造性をキャリアアンカーとしている人は、クリエティブな発想ができる仕事やリスクをとって行う仕事を望んでいます。そのため新規事業や新規プロジェクトなどを任せると、創造性を活かして力を発揮する傾向にあります。リスクを恐れず常に新しいモノを作る過程や課題解決の刺激に喜びを感じるタイプです。また、キャリアの早い時期からこの傾向が強く、最終的には起業の道に進むことが多いのもこのタイプの特徴です。
奉仕・社会貢献 (SV: Service / Dedication to a Course)
- タイプ
- 医療、社会福祉、教育者タイプ
- 価値観
- 仕事を通して世の中を良くし、社会的な意義を成し遂げたい
- 向いている仕事
- 商品・サービス開発、監査、福利厚生など
奉仕・社会貢献をキャリアンカーとしている人は、誰かを助ける、社会の役に立つなど社会的に意義のあることを成し遂げたいと望んでいます。そのため昇級や出世にこだわらず、自身の仕事にどのような社会的な意義があるかを考えて選択することが多いのが特徴です。医療や社会福祉、教育などの公共の利益のために尽力する仕事に向いていますが、正義感が強く内部不正などを見逃せない性質を活かして、企業内では監査やCSR部門で働くと良いでしょう。
純粋な挑戦 (CH: Pure Challenge)
- タイプ
- 挑戦家・冒険家タイプ
- 価値観
- 不可能と思われるようなものに挑戦したい
- 向いている仕事
- 多くの部署がある企業、多くの事業を営んでいる企業など
純粋な挑戦をキャリアアンカーとしている人は、人との競争や変化や難しさに挑んでいくことにやりがいを感じ、キャリアにおいて自分を試し続けることを望んでいます。不可能と思われる環境や状況で、課題や問題を解決していくことを好む傾向にあり、手ごわい相手に打ち勝つことにやりがいを感じます。挑戦自体が目的であるため、特定の仕事や専門分野にこだわらず、配置転換や異動、転職にも前向きで、昇進にもあまり興味を示しません。一方、常に挑戦を求めるため張り合いのないルーティンワークを苦手としています。
ライフスタイル (LS: Lifestyle)
- タイプ
- ワークライフバランスタイプ
- 価値観
- 仕事の時間と同じようにプライベートの時間も大事にしたい
- 向いている仕事
- 在宅勤務ができる仕事、福利厚生がしっかりしている企業など
ライフスタイルをキャリアアンカーとしている人は、自身の仕事と同様にプライベートの時間も大事にすることを望んでいます。そのため自身の仕事や個人の時間、家族との時間などを総合的に考えて、バランスを取っていくことを重視しています。自律・独立をキャリアアンカーとしているタイプと似ているように見えますが、条件が満たされていれば組織のために働いていくことに不満がない点で異なります。このタイプは仕事とプライベートの両方のバランスが取れていれば、モチベーションを維持して能力を発揮します。ライフスタイルのタイプは、テレワークが認められており、残業時間が少なく、各種休暇などの福利厚生がしっかりしている職場が適しているでしょう。
キャリアアンカーの診断方法
キャリアアンカーの診断方法としては、自身で資料や質問シートを用意して行う方法と診断ツールを利用して行う方法があります。しかし自身で資料や質問シートを用意する方法は手間がかかると同時にテスト結果を見比べるなど大変な部分も多いため、診断ツールを利用して回答していく方法がわかりやすくて良いでしょう。
参考リンク:キャリア・アンカー診断
おすすめのキャリアアンカーに関する本
キャリア・アンカー ― 自分のほんとうの価値を発見しよう
- 書籍名
- キャリア・アンカー ― 自分のほんとうの価値を発見しよう
- 筆者
- エドガー・H. シャイン
- 出版社
- 白桃書房
- 発売日
- 2003/6/1
- URL
- https://amzn.to/2Y57tpx
キャリアアンカーとは何かについてシャイン博士自ら解説しており、キャリアアンカーにおける8つの分類のどこに自身が当てはまるかを測定できる質問票もついている、キャリアアンカーに関する代表的な書籍です。自身のキャリアの軸を見つける本となっています。
シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方
- 書籍名
- シャイン博士が語るキャリア・カウンセリングの進め方
- 筆者
- エドガー・H. シャイン
- 出版社
- 白桃書房
- 発売日
- 2017/1/20
- URL
- https://amzn.to/3bAcERD
キャリアアンカーの重要性について理解はしたが活用方法に悩んでいる人向けの一冊です。キャリアアンカーの活用法から、キャリアカウンセリングの進め方までを解説してくれている本です。
キャリア・アンカー〈1〉セルフ・アセスメント
- 書籍名
- キャリア・アンカー〈1〉セルフ・アセスメント
- 筆者
- エドガー・H. シャイン
- 出版社
- 白桃書房
- 発売日
- 2009/5/1
- URL
- https://amzn.to/3pUmp5u
「キャリア・アンカー ― 自分のほんとうの価値を発見しよう」の中のワークシート部分を抜き出した小冊子です。項数は50にも満たないため、非常に手軽で扱いやすい一冊です。
キャリア・アンカー ゼロ ~あなたの本当の価値を見つけよう
- 書籍名
- キャリア・アンカー ゼロ ~あなたの本当の価値を見つけよう
- 筆者
- エドガー・H. シャイン
- 出版社
- プロセス・コンサルテーション
- 発売日
- 2020/10/2
- URL
- https://amzn.to/3q60Oa6
まとめ
ビジネスパーソンは自身のキャリア形成について考え続けることが必要な時代となりました。今や転職に限らず、キャリアデザインを行うなどして自身のキャリアと向かい合うことは充実した社会人生を歩むために避けられない行為と言えます。
キャリアアンカーは自己分析の切り口として非常に有効と言えます。キャリア観の軸を把握し、能力を発揮し満足できる働き方を知ることができるキャリアアンカーは、転職志望者や採用企業の間でも活用が広がっています。キャリアアンカーを有効活用することで自身の価値観を見つめ直すと同時に、マッチする働き方にも近づいていきます。今一度自身のキャリアデザインを見直すきっかけにキャリアアンカーを活用してみてはいかがでしょうか。
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