タレントマネジメントとは?効果・導入方法・おすすめの本【総解説】

タレントマネジメントとは

タレントマネジメントとは、従業員の持つタレント(Talent:才能)をマネジメントすることで人材を最大限に活用しようとする、人材マネジメントの一種です。経営戦略を実現するために必要な人材を獲得・育成・配置した上で適切な評価を行うことで、人材を最大限に活用するのがタレントマネジメントの狙いです。

噛み砕いて言えば、人材情報を人材データベースに登録・見える化し、経営戦略を実現する上で重要な人材を抽出したり、将来を担うリーダーを見出したり、タレントに応じた育成開発を実施したり、必要に応じて採用や配置をしたりするのがタレントマネジメントだと言えます。

当初は管理職など一部のリーダーの育成計画でのみ利用されてきたタレントマネジメントですが、近年ではタレントマネジメントシステムの普及もあり全従業員のスキルや経験を一元管理し、活用しようとする動きも盛んになっています。

タレントマネジメントの目的

タレントマネジメントを行う最終的な目標は「経営戦略の実現」です。経営戦略を人事面から支えるための人材管理手法がタレントマネジメントであり、効果的にタレントマネジメントを行うためには自社の経営戦略にも目を向ける必要があります。

とは言え、こうしたCHRO(最高人事責任者)のような高い視点を持つためには相応の経験が必要であり、タレントマネジメントに関わる全ての人事担当者が経営を理解しているわけではありません。担当者レベルでは、人事面での中間目標として「人材調達」「人材育成」「人材配置」「人材定着」の4種が目標となることが多く、これらの最適化・最大化に向けてタレントマネジメントを実施するケースが多いと言えます。

「人材調達」では、必要な人材を採用したり、既存従業員の中から該当スキルを持つ人材を発掘したりすることで経営戦略の達成に貢献することを目指します。「人材育成」では、自社の人材に足りない知識やスキルを身に付けさせるために研修や能力開発などを行います。

「人材配置」では、各人材が最大限能力を発揮できる部署やポジションへの配置換えを行うことで生産性の向上を目指します。「人材定着」はいわゆるリテンションマネジメントを行います。採用・育成した従業員のエンゲージメントを高めることを目指します。

タレントマネジメントが注目される理由

「タレントマネジメント」という用語が初めて用いられたのは1990年代。米コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーが刊行した「The War for Talent」にて、企業の人材育成競争について触れたことで浸透したと言われています。人材の流動性が高いアメリカでは、必要な仕事に対して人を充てるジョブ型雇用なども一般的であり、早くから経営戦略に基づいたタレントマネジメントの必要性が重視されてきました。

一方、新卒一括採用・終身雇用・年功序列などに代表される日本型雇用では、経営戦略に基づく柔軟な採用や人材開発は縁遠く、タレントマネジメントはあまり浸透してきませんでした。

しかし、価値観や働き方が多様化しこと、少子高齢化で労働力人口が減少したこと、労働市場が売り手市場となったこと、人材の流動性が高まったことなどを背景に、タレントマネジメントに注目が集まるようになりました。

最適なマネジメントのもと人材の能力を最大限発揮させて生産性を高めることに意識が向かない企業は、厳しいビジネス環境の中で生き残れない現代において、タレントマネジメントが注目を集めるのは必然と言えるかもしれません。

タレントマネジメントのメリット・デメリット

メリット

タレントマネジメントはタレントの把握と整理から始まります。従業員が持つ能力やスキル、経験、パフォーマンスなどをデータベース化して整理することで、前述の「人材調達」「人材育成」「人材配置」「人材定着」の各目的に対して多くのメリットを享受することが可能です。

例えば「人材調達」では、経営戦略実現のために必要な人材と現状のギャップを把握することで自社に足りないタレントを見極めて計画的に採用活動を行うことができます。また、データベースからコンピテンシー(ハイパフォーマーに共通した行動特性)を見極められれば、どのような人材を採用すべきかが見えてくるかもしれません。

「人材育成」では、過不足のない育成や人材開発を計画的に組むことができるほか、社内の人材育成記録を残すことで同様のタレントを育成する際の参考データとして再現性を高めることに役立つかもしれません。

「人材配置」では、採用・育成した人材を必要なポジションに配置し、その結果をモニタリングしていくことで、どれくらいの成果が出たのかなどを把握することが可能です。モニタリング結果を参考に、次回に向けた改善もできるでしょう。

「人材定着」では、エンゲージメントの向上による離職率の低下など一番わかりやすい形でメリットが見えるかもしれません。

デメリット

タレントマネジメントそのものは有用だったとしても、運用体制や社内の理解が十分でない場合デメリットとなってしまうこともあります。

例えば、流行りだからと明確な目的なくタレントマネジメントシステムを導入してしまった場合などでは、活用しきれないばかりか手段が目的化してしまい人事の業務が増えるだけになってしまうかもしれません。同様に、経営層の理解がない場合は経営戦略に沿ったタレントマネジメントが実現できないため十分な効果を発揮できないかもしれません。

また、現場が非協力的な場合、従業員の情報が十分に集まらずタレントマネジメントの意義が薄れてしまうこともあるでしょう。タレントマネジメントを十全に行うためには分析や計画立案に相応の時間と手間がかかるため、こうした環境ではかけたコストに対して成果が小さくなってしまうかもしれません。

いずれにせよ、これらのデメリットを回避するためには、経営層やCHROの主導のもと全社的に取り組んだり、現場のタレント情報を抜け漏れなく吸い上げる仕組み化を検討したり、効率的に人材情報を管理できるタレントマネジメントシステムを導入したり、といった工夫が不可欠です。

タレントマネジメントの導入ステップ

タレントマネジメントの導入ステップ

タレントマネジメントは上図のようなサイクルで取り組みます。まず目的を整理し、タレントを洗い出すための仕組みを整えましょう。その後、PDCAを回していきます。以下それぞれ解説していきます。

[準備段階] 目的の整理

どのような目的でタレントマネジメントを導入するのかを定めるところから全ては始まります。

この際の目標は人事部内でのみ共有される短期的な目標ではなく、長期的な経営戦略に関わる視点で設定しましょう。

経営陣を巻き込んで全社的な取り組みとして進めることでタレントマネジメントの恩恵を最大化することができるため、目指すべき経営目標とそれを人事面から支えるための中間目標を設定できると良いでしょう。

[準備段階] タレントの洗い出し

対象となる従業員の氏名、顔写真、経歴、経験、実績、評価、保有資格、人物像など、業務に関わると思われる人材情報を可能な限り登録します。

タレントの洗い出しは最初に一度だけ行えば良いものではなく、常に最新の情報が更新され続ける仕組みを作りましょう。情報の提供を裁量に任せてしまうとなかなか情報が集まりません。人事評価のために必ず入力しなければならないなど抜け漏れのない仕組みを作ることが重要です。

[実行:P] タレントの採用・開発計画の策定

準備段階を経たらいよいよタレントマネジメントの実施フェーズに入ります。まずは経営目標の実現のために必要な人材と現在自社が抱えるタレントを比較し、ギャップを正しく認識しましょう。

例えば近年注目されているDXを推進したい場合、多くの企業では既存従業員の知識やスキルだけでは実現できません。こうしたケースでは、DX人材を新たに採用したり、外部研修などを利用した人材開発で既存従業員をスキルアップさせたりすることでギャップを埋める必要があります。また、既に社内でノウハウが蓄積されているスキルを習得させたい場合などは、社内研修やOJTを計画すれば良いでしょう。

どのような人材をどれだけ採用または育成開発すればギャップは解消されるのか、具体的な計画を立てることがタレントマネジメントのPDCAの第一歩になります。

[実行:D] タレントの現場での活用

計画が策定されたら、次は計画に沿ってタレントを採用・育成し、現場に配置します。どの部署、どのプロジェクトに、どんな能力を持った人材を何人配置するのかなどは、配置に先んじて各部門の責任者に情報共有しておくことはもちろん、配置後に問題はないヒアリングするなど、タレントマネジメントで配置した人材がスムーズに業務に入れるよう気を配っておきましょう。

[分析:C] 結果の評価

配置された人材が能力を発揮できたか、期待していた成果を出せたか、部門やチームの業績や生産性は向上したか、部門やチームに貢献できたか、モチベーションやエンゲージメントは落ちていないか、など予め設定しておいた評価指標に従いタレントマネジメントの結果を評価しましょう。正しい評価のためには、客観的な数値での評価のほかにも一対一の面談を通したヒアリングなどを実施しても良いでしょう。

タレントマネジメントの実施により何がどう変わったのか、結果から事実を正しく認識・評価することは次の改善へとつながるため重要です。

[改善:A] 改善案の策定

タレントマネジメントの結果を正しく把握できたら、次に向けた改善策を練ります。計画が上手くいった場合は何が良かったのか、上手くいかなかった場合はどこに原因があったのかを分析し、仮説を立てて次の採用計画や開発計画の策定に役立てます。

また、もしタレントマネジメントで配置した人材が新しい環境でモチベーションを下げてしまっていたり苦しんでいたりすることが明らかな場合は、異動を検討するなどのフォローも忘れてはなりません。

タレントマネジメントの成功事例

日産自動車

日産自動車はタレントマネジメントに力を入れている企業として有名です。2011年には「グローバルタレントマネジメント部」を設立し、グローバルで活躍できるビジネスリーダーの発掘・育成を目指した取り組みを開始しています。

ハイポテンシャルな若手従業員に海外事業所での経験を積ませエリート育成を行ったり、日本独自のチームワークとグローバルなスキルを併せ持った「和魂多才」人材の育成強化を行ったりと独自のタレントマネジメントを展開し、日産の将来を担うリーダーを育成しています。

参考リンク:日産自動車 日本タレントマネジメントの取組

サントリーホールディングス

「サントリーは人が命の会社である」と歴代の人事部長が語ってきたというサントリーホールディングスは、全社員が生き生きと働ける環境を目指して人材の評価・育成・配置に取り組んでいると言います。

タレントマネジメントシステムには従業員の基本情報から経歴、上司から見た適正、強みや弱み、キャリアの方向性、過去の人事考課、面談記録、異動時の申し送り事項など、あらゆる情報を登録しています。こうしたデータをもとに、従業員一人一人が先輩のキャリアに触れ、自らキャリアデザインを作り上げる風土を作っているとのことです。

タレントマネジメントに関する本

日本企業のタレントマネジメント

第18回 経営行動科学学会賞を受賞したタレントマネジメントに関する書籍です。タレントマネジメントについて学術面から体系的に整理しているほか、企業事例にも触れています。日本企業に適したタレントマネジメントについて学びたい方におすすめの一冊です。

書籍名
日本企業のタレントマネジメント
筆者
石山 恒貴
出版社
中央経済社
発売日
2020/7/14
URL
https://www.amazon.co.jp/dp/450235421X

タレントマネジメント入門

初心者向けのタレントマネジメントの入門書です。タレントマネジメントの定義や理論について初心者にわかりやすく説明しているほか、モデル事例も豊富に掲載しています。タレントマネジメントについて、学術的視点と実務的視点の双方から知りたい方におすすめの一冊です。

書籍名
タレントマネジメント入門
筆者
柿沼 英樹 / 土屋 裕介
出版社
ProFuture
発売日
2020/7/31
URL
https://www.amazon.co.jp/dp/4908020094

タレントマネジメントシステム 3選

カオナビ

https://www.kaonavi.jp/lp/kaonavi/

カオナビは国内シェアNo.1を公式サイトで謳うタレントマネジメントシステム(2022年5月現在)です。人材データベースはもちろん、ソート機能や評価ワークフロー機能、社員アンケート機能、高度なセキュリティ機能など、タレントマネジメントに必要な機能を幅広く備えているほか、サポート体制も充実しています。導入企業数は2,000社以上と多く、大手企業の導入実績も豊富であり、信頼感の高いツールと言えるでしょう。無料のトライアル版も用意されているため、タレントマネジメントシステムをお探しの場合は利用してみても良いでしょう。

タレントパレット

https://www.talent-palette.com/

タレントパレットは「人事にマーケティング思考を取り入れ科学的人事を実現するタレントマネジメントシステム」を謳うサービスです。データ分析を強みとしており、単に人事業務を効率化するだけでなく、人材情報の分析を通して経営戦略や人事戦略を高度化させることに主眼を置く特徴としています。大手の導入も豊富で、サポート体制も充実しているため、気になる方は無料の体験版を利用してみると良いでしょう。

HRBrain

https://www.hrbrain.jp/

HRBrainは人事や労務のツールを提供する企業で、「タレントマネジメントクラウド」は人事のあらゆる課題をシンプルに解決することを目指して作られクラウド式のタレントマネジメントシステムです。人事業務の効率化や組織の見える化、人材データの分析・活用に強みを持ち、タレントマネジメントに必要な幅広い機能を有しています。無料体験版も用意されているため、気軽に試してみても良いでしょう。

まとめ

ピーター・ドラッカーは「人は宝」と言いました。組織に必要な能力を持った人材を採用し、育てることは企業が成長する上で欠かせません。人材の流動性が高まり、ビジネス環境が大きく変わる中、日本でもタレントマネジメントに注目が集まっており、今かつてないほど人事の重要性は高まっていると言えます。

新たなタレントを発掘することは企業にとって価値が高いことはもちろん、従業員の視点でも自身の能力を発揮する場が与えられることはポジティブな意味を持ちます。誰もがそれぞれのタレントを発揮し、企業と個人の双方の成長につながる時代が来ることを願っています。

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