コロナ禍の転職を考えている人が知っておくべきこと

転職への新型コロナの影響

2020年に突如として全世界を襲った新型コロナウイルス感染症は、転職市場にも大きな影響を与えました。具体的には「売り手市場」から「買い手市場」への変化です。転職における買い手市場とは、採用を行う企業数に対して転職希望者数が多い状況を指します。買い手市場では少ない求人に多くの転職志望者が集中するため、企業側が有利な条件で採用を進めやすい状態と言えます。

財務省が2021年1月28日に発表した「新型コロナウイルス感染省による企業活動への影響」によれば、新型コロナウイルス感染症によって業績が減少したと回答した企業は59%にも上っています。多くの企業の売上や利益が減少してしまったことで、企業は新規の採用を抑える動きを見せました。企業が新たな採用活動を行う余力がなくなってしまったことは、転職志望者にとって逆風と言えるでしょう。

一方、業界や職種によっては求人数が増加した分野もあります。その最たる例が医療関連です。ニュースなどでも日々大きく取り上げられている医療の逼迫は、対応する医療従事者が少ないことも一因に挙げられています。感染が拡大する新型コロナウイルス感染症に対応するために、医療関連の求人数は大きく増加傾向にあります。また、コロナ禍でインターネット通販の利用者数が急増したことを追い風に、IT業界やWeb業界などの情報通信関連の求人数も増加傾向です。(参考:財務省 統計局 労働力調査(基本集計) 2021年(令和3年)7月分結果「主な産業別雇用者数」)

転職市場全体ではマイナスの影響を与えていますが、業界や業種によっては求人数を増加させていることもあり、その影響は業界・職種によってさまざまだと言えるでしょう。

データから読み解く新型コロナの転職市場への影響

新型コロナウイルスの転職市場への影響について、さらにデータを用いて掘り下げて見てみましょう。
厚生労働省が定期的に発表している「一般職業紹介状況」によれば、転職のしやすさを示す指標である「有効求人倍率」は、2021年7月時点で1.15倍と依然として「1」を超えているものの、2019年は1.55倍、2018年は1.62倍と比較すると大きく下落しています。求人数にいたっては感染拡大前の2019年7月と比較すると22.7%も減少しており、新型コロナウイルス感染症が市場に大きな影響を与えたことがわかります。

またパーソル総合研究所シンクタンク本部が発表した「今後の労働市場動向について」の調査によれば、2021年度の中途採用数を減らすと回答した企業は全体の16.3%だったのに対し、採用を増やすと回答した企業は6.6%に留まったと言います。ワクチン接種が進んだ今もなお、新型コロナウイルス感染症は転職市場や採用市場に対してネガティブな影響を与え続けていると見て良いでしょう。

一方でIT業界やWeb業界などでは求人数が増加傾向です。パーソルキャリア株式会社が2021年7月に発表した「転職求人倍率レポート」によれば、IT・通信の求人倍率は前年同月日で1.71倍と大きく上昇しています。

以上のように、転職市場全体としては新型コロナウイルス感染症の影響でネガティブな状況が続いていますが、医療やITなど一部業界ではコロナ以前よりも転職市場が活性化している、という状況であることがデータからも見て取れます。また、今後の見通しとしては、国民の過半数がワクチン2回接種を終えたこともあり、徐々に転職市場も回復傾向にシフトしていくことが予想されます。

「コロナ禍は転職のチャンス」は本当か?

一部ではコロナ禍が転職のチャンスであるかのように語られていますが、これは事実なのでしょうか。前述のデータからわかるように、実態としては一部の業界を除きチャンスと言えるほどの状況ではないと考えるのが妥当だと言えます。

また、コロナ禍で体力を奪われた企業はじっくり何年もかけて人材を育てる余裕を失っており、求める人材像も今までよりも即戦力に寄ると考えられます。長期的な企業の成長を見据えた経営は余裕がないと生まれにくいものです。企業に余裕がないときはどうしても目の前の資金繰りや売上を重視しがちで、すぐに成果をあげられそうな人材をどの企業も求めます。

多くの企業が苦境に立たされているコロナ禍を転職のチャンスと捉えるためには、企業が求める成果を即座にあげられるであろうことを示せるだけの経験やスキルが必要でしょう。コロナ禍で転職を考えるのであれば、未経験の業界や職種に飛び込むのではなく、即戦力となれる業界を選ぶと良いと考えられます。

コロナ禍で転職意向ありは8割

株式会社MyReferが会社員男女1,000名を対象として行った「コロナ禍の転職意向調査」によれば、コロナ禍によって転職を考えた人は77%にも上ったと言います。実際に転職したのはそのうち10%程に留まったと言いますが、多くのビジネスパーソンがコロナ禍で転職を考えたことを示すこのデータは、多くのビジネスパーソンがコロナ禍でさまざまな不安を抱えていたことを表していると思われます。

コロナ禍で現職の企業の経営状況が悪化して将来を不安に感じる、業界そのものの雲行きが怪しくなった、労働環境や労働条件が悪化して働き方を変えたくなった、など転職を考えたビジネスパーソンのさまざまな心理が想像されます。コロナ禍は多くのビジネスパーソンにとって転職を含むキャリア転換を考えるきっかけになったと言えるでしょう。

コロナ禍で転職を考えた人の主な理由

前述のMyRefeの転職意向調査では、転職を考えた理由として「会社や事業の将来性に不安を感じたから」が53.6%、「働き方を変えたいから」が、42.4%、「自分のキャリアを見つめ直したから」が36.4%とそれぞれ挙げられています。

コロナにより業績が悪化した、給与カットやボーナスカットされてしまった、部門が縮小してしまったなど、転職を考えたと回答した人の過半数が会社の将来性に不安を感じていたと言えます。またコロナ禍ではテレワークが急速に普及した一方で、テレワークの導入に否定的な企業も一定数存在しており、そうして企業で働くビジネスパーソンが在宅勤務を選択できる働き方を希望して転職を考えたケースもよく耳にします。

また別のケースとして株式会社dodaが行った転職調査では、緊急事態宣言後の転職理由の1位が「給与が低い・昇給が見込めない」でした。これらの調査からコロナ禍によって先の見通せない状況になり、現在の仕事への不安や今後のキャリアへの懸念から、将来を見据えて転職したいと考えている人が多かったと言えます。

コロナ禍でも求人が多い業界

医療・製薬・健康

医療・製薬・健康などの業界はコロナ禍において、最も人材を必要としている業界だと言っても良いでしょう。コロナ患者を最前線で治療にあたる医療従事者はもちろんのこと、ワクチンや治療薬の開発が急がれている製薬業界も、より専門的な人材を集めています。

新型コロナウイルス感染症による病院への訪問規制などの影響を受け、医療業界は業績が一時的に落ち込みましたが、現在では回復傾向に戻ったと言われています。また、医療機関の需要増に伴い、医療機器メーカーの営業職やマーケティング職の求人数も増えてきています。さらに、医療エンジニアも積極的に採用されており、AI活用などができる人材にとっては大きな転職チャンスとなっているようです。

IT

コロナ禍の最大の変化のひとつがテレワークです。多くの企業ではテレワークの浸透に合わせてオンライン会議システムやチャットシステム、クラウドによるデータ共有などさまざまなITツールの利用が進み、こうしたサービスを提供する企業の求人が増加しました。また、インターネット通販を中心としたWebへのシフトも大きく進んだ結果、Web系人材の転職市場も大きく伸びています。

IT業界では、営業からエンジニア、Webデザイナー、Webマーケッター、ITコンサルに至るまで、企業規模を問わず活発に求人が出ています。IT業界は引き続きDXやセキュリティなど企業運営における重要なテーマで賑わいを見せており、関連する求人数も増えていく見通しです。

銀行・証券・保険

銀行や証券業界も積極的な採用活動が継続されています。採用数は過去最高水準で高止まりしており、ITやデジタルに強いDX関連の人材を求めた求人が多いのが特徴です。保険業界はコロナ禍で一時的に採用を見合わせていましたが、現在では求人も回復傾向にあり、営業職やDX関連を中心に活発になってきています。

また銀行業界ではSDGsへの取り組みを推進できる人材の確保も、課題として挙がっているため、求人数が増加傾向です。

環境・エネルギー

環境・エネルギーの分野では、Web面接などの新たな採用活動が求人数の増加につながっています。コロナ禍で採用活動がオンラインにシフトした結果、地方在住者や海外駐在者に対しても採用活動を行えるようになり、環境・エネルギー分野では海外での経験を持った人材に焦点が当たるようになりました。

また脱炭素や再生可能エネルギー関連に関する求人が多く、技術者には大きなチャンスとなっています。エネルギー関連でもDX化の波は顕著となっており、IT人材の引き合いは強いです。

コンサルティング

コンサルティング業界も徐々に求人数が増えてきました。当初は採用の動きが鈍ったコンサルティング業界ですが、アフターコロナを見据えて経営戦略を策定したいと考える企業が増えてきたことから、少しずつ求人が増えた形です。

DXや5G、テレワークなどに関わるIT・情報通信業、金融機関、官公庁などの案件が活発に動いていることから、これらの業界に向けたコンサルティングができる人材の採用は活発に動き出しています。徐々に第二新卒や未経験を含む採用も回復してきており、コロナ禍の転職市場としては比較的元気な業界だと言えます。

化学

化学業界では半導体関連の求人数は大きく回復しています。バイオ、ヘルスケア領域も求められています。コロナ禍による影響も少なく、利益減などが少なかったためです。また2021年度の業績は化学メーカーを中心に、増収や増益が見込まれているため採用はさらに加速すると考えられています。化学・素材メーカーでは増収増益が予想される大手企業が多く、経験者はもちろん、未経験者にもチャンスが広がる見通しです。

また、カーボンニュートラルに向けた研究開発に携われる人材や、DXに関われるIT人材なども需要が高そうです。

人材

転職エージェントや人材派遣会社などの人材を扱う業界は、コロナ禍で一時的に採用が鈍りましたが、現在ではコロナ前の水準と遜色ないレベルにまで求人が回復しつつあります。中でも医療・ITなどを専門としたエージェントの需要が伸びているほか、ハイクラスなどを扱う人材会社も需要が高い状態です。

先述のようにコロナ禍によって転職を検討している人も増加しており、人材業界自体も特需のようになっています。そのため人材業界の求人も多く出ている状態です。

コロナ禍で変化した転職活動

オンライン面接が主流に

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の初期に「ソーシャルディスタンス」という言葉が注目を集めたことは記憶に新しいかと思います。人と人が対面で合いにくくなった現在、採用活動でもオンライン面接が主流になってきています。

オンライン面接のメリットは移動や時間にお金がかからないため、求職者にとって複数社への応募がしやすくなったことが挙げられます。そのため地方や海外にいながらも、希望した企業に応募もできるようになりました。また面接場所が自室であるため、リラックスして面接に臨むことができる点も、転職志望者側・企業側の双方にとって魅力と言えるかもしれません。

一方、オンライン面接のデメリットは、やはり表情や感情などが対面と比べて伝わりにくいという点です。画面越しでも十分なコミュニケーションができなければ、間違った印象を相手に与えてしまう可能性もあるので、面接時には注意が必要です。他にも快適な通信環境や画質、音質、背景など身だしなみや言葉遣いと共に注意しなければいけない点が増えました。

テレワークと同様に、オンライン面接もずいぶん浸透したため、コロナ禍の面接はもちろん、アフターコロナの世界でもオンライン面接は利用されていくと予想されるため、対策を十分にして挑みたいものです。

転職活動の期間が伸びる傾向に

コロナ禍の転職活動は、コロナ前と比較すると活動期間がやや伸びている傾向にあります。緊急事態宣言などを含む新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、選考スケジュールにも影響を与えることがあり、以前よりも転職活動にかかる時間が伸びてしまいがちです。そのため、コロナ禍の転職活動では、3カ月以上かかることを想定して少し余裕を見たスケジュールで活動を進めていくと良いでしょう。

30代の転職 成功の秘訣!上手に転職するための5つのポイント」等の記事でもお伝えしましたが、長期間の転職活動を前提とした場合、時間の他に余裕を持っておきたいのが金銭面です。

退職後に転職活動を行う場合、無収入が続いてしまいます。転職活動が3カ月から半年に及ぶなどして金銭的に余裕がなくなってしまうと焦ってしまい、冷静な転職活動がしにくくなってしまいます。コロナ禍の転職活動はできれば在職中に行い、3カ月から半年ほどかかることを考慮して進めると安全でしょう。

転職後もリモートワークが中心に

コロナ禍では主に人流を抑えることを目的に、テレワークが推奨されました。今では多くの企業がテレワークを取り入れるなど、新しい働き方が浸透してきたと言えます。
IDC Japanの分析によれば、2020年にテレワークを取り入れた企業は161万社に上り、2019年の62万社から大幅に増加しています。さらに今後もテレワークを実施する企業は、増加して行くという試算も出しています。そのため転職後もオフィスではなく、リモート中心の働き方になることも十分考えられるでしょう。

こうした環境に備え、テレワークで求められるコミュニケーションスキルを磨いておいて損はないと言えます。

コロナ禍で転職する際に注意したいこと

コロナ禍以前も中途採用の人材には即戦力が期待されるケースが多かったと言えますが、コロナ禍でその傾向はより強まったという話も多く耳にします。

日経HRが転職エージェントに対して行った調査では、2021年の中途採用選考基準が「厳しくなる」との回答がおよそ7割に上ったとしています。さらに今後はより即戦力や専門人材を中心とした採用が続くとも予想されています。こうした即戦力が重視される環境では、転職志望者は経験やスキル、専門知識などを整理して、自身が歩んできたキャリアを活かせる業界や職種に応募する必要があると言えます。

前述のように、コロナ禍で全ての業界の転職市場が冷え込んでいるわけではありません。求人数が増えている業界もあります。コロナ禍の転職では自身がどの業界、どの会社に転職するのが合っているか、注意しながら進めていくのが良いでしょう。

まとめ

新型コロナウイルス感染症はわずか1年足らずで世界のあり方を大きく変えてしまいました。変わったものの中には働き方や転職市場も含まれます。多くの企業が業績を悪化させ、転職市場も鈍化しました。

しかし医療関係者をはじめとした多くの人々の努力の結果、一部の業界では明るいニュースも散見されるようになってきました。中にはコロナ禍以前の水準を取り戻した企業や特需に沸く企業も出てきており、それに伴い求人や採用も活発化している業界も出て来ています。
出口が見えず将来を見通しにくい今だからこそ、転職を考えるビジネスパーソンは多くいます。本稿の読者が、コロナ禍の苦境をチャンスに変えて転職に成功することを願っています。

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