キャリアパスとは?意味・書き方・事例まで具体的に解説
目次
キャリアパスとは
定義
キャリアパスとは、キャリア(Career)の道筋(Path)の言葉通り、目指すべき職務や役職に就くために、どのような仕事をどれくらいの期間経験し、どのようなスキルを身につけるべきかを示す道筋のことを指します。
近年の多様化する働き方の中で、企業が従業員に対して提示するキャリアパスが人材育成制度として多くの企業で取り入れられています。キャリアパスを導入する理由は、従業員に対して目標とするキャリアの道筋を明確化することで将来像を想像しやすくし、意識とモチベーションの向上が期待できるからです。
キャリアパスが明示されることで自身の将来像が鮮明にイメージできれば、従業員は将来に対する不安が減り、所属している企業に対しての安心感が生まれて離職率を低下させることにも役立ちます。
企業にとっても従業員にとってもメリットが大きいのがキャリアパスと言えるでしょう。
キャリアデザインやキャリアプランとの違い
キャリアパスと似た考え方として「キャリアデザイン」や「キャリアプラン」があります。
「キャリアデザイン」とは、自分がどんなキャリアを歩みたいのか、どんな働き方を理想とするのかといった将来のビジョンを定め、行動指針を設計して主体的に行動に移すことを指します。キャリアパスは企業が従業員に対して示していく道筋であるのに対し、キャリアデザインは従業員が自身を分析して主体的に設計する道筋である点が異なるでしょう。
「キャリアプラン」とは、転職などを含めて自身の将来の仕事に関するプランを決めていくことを指します。キャリアデザインと比べると長期の計画であることが多いと言えます。キャリアパスが企業内の道筋であるのに対して、キャリアプランは転職など企業外の道筋まで含む点が異なります。
キャリアパスが重視される背景
キャリアパスという考え方が重視される背景として、従来までの評価制度の変化や働き方が多様化したことが挙げられます。
従来、日本企業の多くが終身雇用制度や年功序列制度を採用していました。しかし近年では、多くの企業で時代に合わせて新たな評価制度が取り入れられ、従業員側の働き方に対する価値観や転職への意識も大きく変化し、人材の流動性はますます高まってきています。
厚生労働省が2018年6月に発表した「我が国の構造問題・雇用慣行等について」によれば、新卒入社した企業で働き続ける人の割合は2016年の時点でも5割程度になっています。この割合はこの20年間で徐々に低下し続けています。
今日では、ひとつの企業に勤め続ける前提でキャリア設計を考えている人が少数派になってきていると言って良いでしょう。長く同じ企業に務めるだけが必ずしも正解ではなく、自身のキャリアと真摯に向き合う重要性がますます増してきたと言えます。
また、テレワークやWワーク、在宅勤務など働き方も多様化してきています。会社に出社して働くことが必要不可欠な時代は終わり、若手を中心に自身にあった働き方で仕事をしていきたいと考える人も増えてきました。
こうした時代の変化を受け、企業は従業員の離職率を下げて長く働いてもらうために、従業員のキャリア観や価値観と向き合い、一人一人に合ったキャリアパスを提示していくことを始めました。優秀な人材に長く働いてもらうために、企業は多様化した価値観を受け入れる必要があったというわけです。
キャリアパスを示すメリット・デメリット
メリット
ここまで説明した通り、キャリアパスが示されることは従業員側にも企業側にもメリットがあります。従業員はキャリアパスが明確になることで自身の将来像を想像しやすくなり、目標を持って仕事に励むことができますし、企業は離職率を抑えることにつながります。キャリアに関するミスマッチを回避できることは、双方にとってメリットとなるでしょう。
また、中途採用などでモデルケースとしてキャリアパスを示すことで、採用におけるミスマッチを防ぎやすくなる場合もあります。
デメリット
一方、キャリアパスを明示することによるデメリットがないわけではありません。明確な道筋が示されれば示されるほど、人はその道以外の将来を想像しにくくなります。もっと他にあったかもしれない選択肢が潰されてしまう可能性をはらんでいると言えるでしょう。
また、示されたキャリアパスが合わなかった場合、従業員が早期離職してしまうかもしれません。キャリアパスの前提には従業員との十分なコミュニケーションが必要となると言えるでしょう。
キャリアパス制度の整備方法
キャリアパスは企業側が制度として整備するものです。ここでは企業側の視点に立って、キャリアパスの制度整備の方法について触れます。個人のキャリアデザインについては、「キャリアデザインとは?目的・設計方法・読んでおきたい本」をご覧ください。
キャリアパス制度を整備するためには、人事制度を見直す必要があります。具体的には「等級制度」「評価制度」「研修制度」「賃金制度」の4つの制度を整備していくことになります。
①等級制度
等級制度はキャリアパス制度の柱となる制度です。それぞれの等級に求められる経験やスキル、知識、役割、責務、権限、業務内容などを明確にします。この等級は役職での区切りよりも細かく設けます。同じ平社員でも等級に段階を設け、責務や待遇に差を付けることで、ステップアップを意識できるようにします。
等級制度を策定することで、従業員は上位の役職を目指すための明確な指標が得られることになります。キャリアパスの柱となるため、慎重に定義したいポイントです。
②評価制度
等級制度の次は評価制度の整備が必要です。各等級で求められる経験・スキル・知識などについて、必要な習熟度や到達レベルを具体化します。数値化できればベストです。曖昧な評価制度だった場合、評価者に気に入られている人が高い評価を受けているのではといった不公平感が広がり、キャリアパス制度自体の意義が薄れます。等級アップに必要なレベルが明確化されている評価制度は、キャリアアップ制度において重要な役割を果たします。
③研修制度
キャリアアップ制度では、従業員がキャリアアップするためのサポートも欠かせません。研修制度を充実させ、スキルや能力を磨く場を用意することはキャリアアップ制度を導入する企業の役目です。研修の内容は、自己啓発など曖昧な内容ではなく、業務で求められる実務能力に直結する内容が理想的です。そのため、講師は上位の等級の社員、もしくは外部のプロフェショナルが担当すると良いでしょう。
④賃金制度
等級が上がると職責も増え、業務の難易度も高まるため、それに見合った賃金を支給する必要があります。従業員が業務に対するモチベーションを高める要素はさまざまありますが、賃金は大きな要素となることは間違いありません。上位の等級に進みたいと考える理由に賃金アップをあげる従業員も少なくないはずです。透明性の高い評価と待遇は、キャリアパス制度の導入には欠かせません。
キャリアパスの作成例・事例
株式会社リコー
株式会社リコーでは、従業員が活き活きと新たなことに前向きにチャレンジする働きやすい会社を目指して、人事制度の改革や従業員のキャリアアップの支援をしています。リコーは企業の成長には多様な人材が必要になるという考えの下、下記の7つの人材タイプを定義しています。
- ビジネスリーダー(事業トップ)
- ビジネスリーダー(機能トップ)
- 新規事業創造リーダー
- プロフェッショナル
- スペシャリスト(高度スペシャリスト)
- プロジェクトマネジャー
- マネジャー
リコーでは、上記の人材輩出に向けてタイプ別の制度と仕組みを構築させています。その一つが「PMコンピテンシー認定制度(PMC)」です。PMCはプロジェクトマネジメント能力を社内基準に基づいて評価し、認定する制度です。認定者にはPMや組織職に優先的に任命されるインセンティブが付与されます。
こうしたキャリアパス制度を導入した結果、2000年度から2014年度の14年間で、女性管理職が8人から110人まで大きく増加するなど、時代に合わせた多様な人材が活躍できる企業風土を実現することができたと言います。
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社みずほフィナンシャルグループでは、「社内外で通用する人材バリューの最大化」にフォーカスするキャリア支援を行っています。従業員一人一人の最大限の活躍を促進することで、企業価値の向上と持続的な成長を目指していくとしています。
専門性を軸としたキャリア形成の支援として行っているのが「キャリアフィールド運営」です。キャリアフィールド運営では会社と従業員の対話を通じて、伸ばす専門性を定め、その専門性を強化・発揮できる活躍領域(キャリアフィールド)での職務経験を積ませていきます。その際、事業領域横断でキャリア形成を行い、幅広い視野を持って俯瞰的に考えるための環境を整えているということです。
他にも、従業員に学びや挑戦の機会を提供する取り組みも行なっています。社内で座談会などを行う公募制度(ジョブ公募)や社外で業務時間外に行う社外兼業制度などを用意し、多様なキャリアパスを用意しているとのことです。その結果、ジョブ公募応募者は2年で400名以上に上り、従業員への浸透が広がっています。
大阪ガス株式会社
大阪ガス株式会社では、全ての従業員が仕事を通じて人間的に成長できる企業を目指して、個性と自主性を活かせる育成コース別の人事制度を導入しています。従業員は4つの育成コース「マイスターコース」「マネジメントコース」「ゼネラルコース」「スペシャリストコース」の中からどのコースに進むか選択でき、それぞれのコースや職種、役職に応じた能力を身につけられる研修を受けられるとのことです。
また大阪ガスでは、従業員一人一人が主体的に中長期的なキャリア希望を描き、進路希望を表明する「自己観察面談」を年1回、全従業員を対象に実施しています。面談でヒアリングした内容を加味して配属先等が決定されるため、従業員が自らキャリアを形成する意識が高まっているとのことです。
さらに、社内公募されている仕事の中から興味のある仕事を選んで挑戦できる「チャレンジ制度」も整備されており、延べ250人以上が応募したとのことです。
キャリアパスを考えるときの注意点
他のキャリアへの視点が狭まる
キャリアパスのデメリットでも伝えたように、キャリアパスが明確に示されている場合、他のキャリアへの視点が狭まってしまうことがありえます。設定されたキャリアパスに強く囚われ過ぎず、他のキャリアの可能性もあることを頭の端に置いておくと良いでしょう。
要件を満たしても昇進できないケースもある
キャリアパス制度が十分に整備された企業では、等級や評価制度が明確になっていますが、場合によっては条件を満たしただけでは役職の昇進が行われないこともあります。例えば、部署内に大勢の上位等級の従業員がいた場合、「上が詰まっている」などの状態が起こりえるケースもありえるかもしれません。
こうしたことが常態化すると、キャリアパス制度自体の信頼性が損なわれてしまうため、企業側は等級アップの条件を公平に判断できるような制度設計を心がける必要があります。
キャリアパスを押し付けないようにする
キャリアパスを設定する際には、目指すべきキャリア像を従業員と企業が擦り合わせ同じ方向を向くことが大切です。従業員が納得していないにも関わらず、企業側が一方的に昇進のためのキャリアパスを押し付けてしまうと、考え方に相違が生まれてしまい、逆に退職の理由となってしまうかもしれません。企業と従業員の双方がコミュニケーションを通して、認識に乖離がないように進めていくことが大切になります。
まとめ
人材の流動化が進み、終身雇用や年功序列も「ひと昔前」の古き良き時代の産物として懐かしく思われるようになった昨今、従業員と企業は双方にキャリアパスについて考え、すり合わせ、共に歩むための努力なくして、従業員の長期的な定着は実現しにくくなってきたと言えます。かつてないほど働き方が多様化する中、私たちは自身のキャリアと真摯に向き合い、明確なビジョンを持って仕事に取り組む必要があるのかもしれません。
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