プレイングマネージャーとは?無理・辛い・難しいと言われる理由

プレイングマネージャーとは

プレイングマネージャーとは、プレイヤーとマネージャーの2つの役割を兼任するポジションです。プレイングマネージャーは、部長や課長などの管理職に就きながらもマネジメントに専念するのではなく、現場の業務も自ら執り行う必要がある役職です。

プレイヤーとマネージャーの二足の草鞋を履くため、多くの業務を迅速にこなせる高い能力が求められるほか、プレイヤーとしての個人の成果とマネージャーとしてのチームの目標達成の両面に責任を負わなければならない大変なポジションだと言えます。

リクルートワークス研究所が行なった調査によれば、管理職として働いているマネージャーの約87.3%がプレイング業務を行っているとしています。こうしたデータからも、日本の管理職にはプレイングマネージャーが多く、マネジメントに専念しているマネジメントの専門家は少数派であることが伺えます。

しかし一方で、プレイング業務が負担となってマネジメント業務に支障が出てしまっているマネージャーは多く、プレイングマネージャーが主流である現状は歓迎すべき状況ではありません。産業能率大学の調査によれば、99.2%の課長がプレイングマネージャーとしての役割を担っており、プレイング業務がマネジメント業務の支障となっていると回答した人の割合は59.1%と過半数を占めています。

現状、年々増加する業務量に対応するために止む無くプレイング業務を担うマネージャーは後を絶たず、日本では企業文化としてプレイングマネージャーを肯定する企業も多いと言えます。しかし上記のように、本来マネージャーが注力すべきマネジメントが疎かになるケースも多く、負担が大きいプレイングマネージャーになることを避けるため昇進を望まない従業員も目立つようになりつつあります。現代の日本のビジネスパーソンにとって、プレイングマネージャーは多くの課題が集中しているポジションだと言えるでしょう。

プレイングマネージャーの役割

プレイングマネージャーは、「現場での成果を上げるプレイヤーの役割」と「部下をマネジメントしてチームを導くマネージャーの役割」の両面の役割を担います。

例えば、営業課長としてプレイングマネージャーの役割を担っている人がいたとします。この課長は、提案資料の作成や顧客との打ち合わせ、契約の獲得など、現場での役割をこなしつつ、部下が営業成果を上げるために必要なさまざまなマネジメント業務を遂行するマネージャーとしての役割も求められます。

他の例としては、システムエンジニアのプレイングマネージャーであれば、クライアントや外部パートナーとのコミュニケーションを取りつつ、現場でのプログラミングも行い、プロジェクトチーム全体のディレクションやマネジメントなども担う必要があります。

こうした現場での役割とマネジメントの役割を高いレベルで両立することが求められるのが、プレイングマネージャーというポジションです。

プレイングマネージャーに求められる能力

現場のスキル

プレイングマネージャーは個人としても現場で成果を上げることが求められるため、現場のスキルが高い水準で求められます。営業職であれば顧客との折衝や提案能力、エンジニアであれば高いプログラミング能力などが、この現場のスキルに該当します。

プレイヤーとして現場に立つ必要がある以上、現場での実務能力が低いプレイングマネージャーは部下の求心力を集められません。高いレベルの実務能力や現場のスキルで説得力を生み出す必要があると言えます。

マネジメント能力

プレイングマネージャーの本分はあくまでもマネジメントです。マネジメント能力は求められて当然の能力だと言えるでしょう。部下が能力を十全に発揮するためのマネジメントができなければ、部下のモチベーションは下がってしまいますし、チームとしての成果も上がらなくなってしまいます。

仕事の優先順位や重要度、部下の適正や能力、負っているタスクの量と進捗などを把握し、時間や予算、人材、タスクなどを管理し、部下の成長を促し、チームを目標達成に導くことは、マネージャーが負うべき責務です。こうしたマネジメント業務をプレイング業務と並行して十分に行えるだけのマネジメント能力が、プレイングマネージャーには求められます。

コミュニケーション能力

プレイングマネージャーにとってコミュニケーション能力は必要不可欠です。プレイングマネージャーは、チームメンバーや部下、上司、クライアント、外部パートナーなど、多くの人と連携しながら働くことが求められるため、コミュニケーション能力なくして成り立たないポジションです。どの業界のどの職種であっても、ほとんどの仕事は誰かしらと関わりつつ行われます。コミュニケーション能力はどこであっても求められる重要なポータブルスキルですが、プレイングマネージャーにとっては生命線となる能力です。

プレイヤーとして現場で実務に当たる場合でも、マネージャーとしてチームを率いる場合でも、高いコミュニケーション能力がなければ仕事は円滑には進みません。マネージャーに昇進する前から意識的に磨いておきたい能力だと言えるでしょう。

モチベーション管理能力

プレイヤーとしての責務とマネージャーとしての責務の両方を負うプレイングマネージャーは、負担の大きい役回りとなりがちです。プレイヤーとしてもマネージャーとしても中途半端になってしまった場合、部下からの信用を失ったり、上司から責められたりすることもあるかもしれません。

こうした厳しい環境下においても、自身のモチベーションをコントロールして状況を改善することができなければ、プレイングマネージャーとして生き残ることは困難でしょう。モチベーションコントロールができることもプレイングマネージャーの資質と言えます。

プレイングマネージャーと通常のマネージャー(管理職)との違い

プレイングマネージャーと通常のマネージャー(管理職)の違いは、プレイング業務を行うかどうかにあります。

通常のマネージャーは本質的にはマネジメントの専門家であるべきで、現場での役割を担うことはありません。マネージャーに現場でのスキルが求められることはありません。マネージャーに求められるのは、マネジメントの専門性や能力です。部下に最大限の能力を発揮してもらう環境を整え、チームが目標達成できるように導くのがマネージャーの仕事です。

とは言え、リクルートワークス研究所が行なった調査や産業能率大学の調査でも、約9割のマネージャーが何らかのプレイング業務を負っていると回答しており、日本ではマネジメントの専門家であるマネージャーは少数派と言わざるを得ません。残念ながら、日本においてはプレイングマネージャーがマネージャーの一般的な姿となってしまっているのが現状です。

プレイングマネージャーが「無理」「辛い」「難しい」と言われる理由

業務過多

プレイングマネージャーはプレイヤーとマネージャーを兼任するため、当然ながら業務量は格段に増えてしまいます。さらに近年では業務量が増加傾向にあり、前述の産業能率大学の調査によれば「業務量が増加している」と回答した人の割合は58.9%と過去最高の値です。

多くのプレイングマネージャーが現場でプレイング業務に従事した後、部下のマネジメントについて残業しながら考えており、このような業務過多の状態が常態化しています。

ワークライフバランスなどが重視されてきた現代において、プレイングマネージャーは業務過多に陥りやすい、負担の大きいポジションだと言えます。

個人の成果とチームの成果の2つを同時に求められる

プレイングマネージャーは「個人」と「チーム」の両方の成果が求められます。プレイヤーのみの成果、マネージャーのみの成果では十分に評価されない評価基準になってしまっている企業もあると言います。

特にプレイングマネージャーになる人材に多いのが、プレイヤーとして高い評価を得てマネージャーに昇進した結果、自身のプレイヤーとしての業務に集中してしまい、マネジメント業務が疎かになり、チームとしての成果が出ないケースです。こうした現場から昇進したプレイングマネージャーの場合、マネジメントの専門性は磨いてきていないことが多く、突然マネジメントをしろと言われても十分な成果を上げにくいという問題を抱えがちです。

プレイヤーとしてはプレイヤー時代と同水準の成果が求められつつ、マネージャーとしては専門外だったマネジメントで十分な成果を上げろとする評価システム自体に無理があるものの、残念ながらこうしたケースは少なくなく、プレイングマネージャーは身を削りながらの業務を求められる場合もあります。

部下からも上司からも信頼を失いやすい

プレイングマネージャーは部下と上司の板挟みになりやすい役職です。マネジメントに時間を取られてプレイング業務が十分に回せなければ現場の部下から信頼を失いやすく、プレイング業務に注力しすぎてチームマネジメントが十全でなければ上司からの信頼を失いやすい、まさに板挟み状態のポジションです。

プレイングマネージャーはどちらもバランス良く行うことを求められる難しい立ち位置の役職である一方、時間は有限であるがゆえに、誰にとっても全ての業務を完璧に仕上げることは困難です。こうした板挟みはプレイングマネージャーが苦しいと言われる理由のひとつとなっています。

昇進しにくい

これだけ辛い役割を担うプレイングマネージャーですが、幹部などへの昇進が難しいポジションであることも辛い、難しいと言われる理由のひとつです。

プレイングマネージャーはプレイング業務にも時間を割いているため、マネジメント能力が磨かれにくい状況にあります。しかし、より上位の役職に就くならば、部署や会社を率いる立場として大勢のメンバーをマネジメントできる能力が問われます。

経営幹部など上位の役職に求められているものはプレイヤーとしての能力ではなく、マネジメント能力です。多くのプレイングマネージャーは幹部になるだけの十分なマネジメント能力を身に付けることができず、昇進にネガティブな影響が出やすい状況に陥っています。

海外におけるプレイングマネージャーの位置づけ

海外におけるプレイングマネージャーは、マネジメントのスペシャリスト的な立ち位置です。海外ではプレイヤーとマネージャーの兼任は生産性が低下し、優秀な部下も育たないことから一般的に倦厭されます。マネージャーはマネジメントを専門に勉強してきたマネジメントのスペシャリストとして業務に当たることがほとんどです。

海外のプレイングマネージャーは、あくまでもマネージャーとしてのKPIやOKRが設定され、部下のマネジメントに注力します。プレイングマネージャーとして他部門のマネージャーと協力しながら、チームやプロジェクトの目標達成に向けてマネジメントに専念することが彼らの仕事です。

元Googleのアジア・パシフィック人材開発部門ヘッドで『世界最高のチーム グーグル流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法』の著者でもあるピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、メディアのインタビューの中で日本式のプレイングマネージャーは問題だと語っています。

日本式のプレイングマネージャーは、プレイヤーとマネージャーの2つの役割を1人の人材が担うため、短期的に見れば、人件費が抑えられるなどのメリットがあるように見えます。しかし長期的に見ると後任が育たず組織が弱まってしまうことが懸念されます。

また、負担の多さゆえにプレイングマネージャー自身が潰れてしまうリスクも抱えてしまいます。企業倫理の観点からも、こうした使い潰しのような行為は決して褒められたことではありません。プレイヤーとマネージャーの両方の役割を担う日本式のプレイングマネージャーは、無理があると言わざるを得ません。

プレイングマネージャーの法的問題

企業がプレイングマネージャーを管理職として扱い、残業代の支払いなどをしない場合は、違法である可能性があります。労働基準法で定められている「管理監督者」にプレイングマネージャーが当たらないケースが多くあります。

労働基準法が定める管理監督者とは「一般的には部長、工場長など労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意であり、名称にとらわれず実態に即して判断すべきもの」です。

企業がプレイングマネージャーを管理職と認識していても、プレイングマネージャーの裁量権が少なく上司の決裁が必要なことが多い場合や、上司の指示を部下に伝達するだけの役割の場合などは、管理監督者として認められない可能性があります。

管理監督者として認められるには、職務内容や責任、権限、勤務スタイル、賃金など、相応の待遇が必要です。プレイングマネージャーを管理職とする場合、管理監督者に該当するかを慎重に見極めなければなりません。

苦しくて耐えられない場合はどうすべきか

マネジメントに比重を移す

ここまで読み進めた方ならば、日本式のプレイングマネージャーが置かれている環境は非常に過酷で、多少の努力では状況を覆しにくいことがわかるかと思います。では、プレイングマネージャーとして苦しくて耐えられない場合、どのような対策を取れば良いのでしょうか。

そのひとつの解答が「マネジメントに比重を移す」という方法です。そもそもプレイングマネージャーとは言え、役職はマネジメントに当たるポジションです。あくまで本業はマネジメントであるとして、プレイング業務の比重を小さくし、将来的にはマネジメントに専念すると決断することは、状況を抜本的に改善する一手となり得ます。

とは言え、黙ってプレイング業務から手を引くと上司・部下の双方から反発を受けることは想像に難くありません。マネジメント業務に比重を移すことを上司や部下に納得してもらうために、事前に十分な説明と引継ぎを行わなければなりません。

十分な理解を得た上でマネジメントに注力し、部下が十分に力を発揮できる環境を作れたならば、自身がプレイング業務で身をすり減らすよりも高い成果をチームとして上げることができるようになるはずです。

反対に、マネジメント業務を捨ててプレイヤーに専念することは避けましょう。マネジメント経験がないままでは管理職への昇進は絶望的ですし、チームとしても機能しなくなってしまいます。

なお、プレイングマネージャーとして苦しいときに最もやってはいけないことは「耐えること」です。手に負えない仕事量や責任に耐え続けていても状況は改善されず、全てが上手く回らない状況が続けば自分自身がボロボロになるばかりか、周囲をも巻き込んで状況を悪化させてしまいます。最悪の場合、心身を壊す可能性もあるため、どうか無理を押して耐えることはしないでください。

転職してマネジメントに専念できるポジションに移る

プレイングマネージャーの役割が苦しく、会社や上司と相談してもマネジメントに比重を移すことが許可されなかった場合、転職を検討するのもひとつの手です。

会社がプレイングマネージャーを必要とする構造になっている場合、過剰な業務量や負担を強いて、使い捨てのごとく酷使してくる可能性があります。ブラック企業という言葉に踊らされるのは良くありませんが、新卒から定年まで40年以上も健康で働くためには、ときに労働環境を変えるという選択が必要になることもあるでしょう。自身の身体はたった一つです。苦しくて耐えられない場合は我慢せずにその場から離れることも選択肢に含めると良いでしょう。

転職先では、プレイングマネージャーとしての経験を活かしてマネジメントに徹することが可能な企業であれば、マネジメント能力が磨かれて将来の道も拓けるかもしれません。

まとめ

「プレイングマネージャー」と検索をすると、「無理」「辛い」「限界」などネガティブな単語がサジェストとして候補に表示されてしまうほど、プレイングマネージャーが負わされる負担は大きいと言えます。しかし、そのような辛い役回りに未だ多くの企業が頼ってしまっていることも実情です。

現場のプレイング業務を高いレベルで実行できることは確かに美徳ではありますが、あくまでもマネージャーの役割はマネジメントであることを再認識し、マネジメントに注力することでチームとして高い生産性を実現できる組織となることが、本来は健全で健康な経営につながると言えます。

今、プレイングマネージャーについて、企業も個人も考え直す時期なのかもしれません。本稿がプレイングマネージャーの環境を良い方向に変えることに役立てば幸いです。

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